失敗事例

事例名称 鋭敏化13Crステンレス鋼は粒界応力腐食割れする
代表図
事例発生地 日本
事例発生場所 某工場
機器 大型DH型4段ターボ圧縮機、吐出量3×100000m3/h,圧力9kgf/cm2,
事例概要 TOプラント用ターボ圧縮機は、汚染大気中で運転するとAISI414鋼製インペラのシュラウド面側羽根付根に付着した堆積物下に腐食孔食が発生し、その底部より応力腐食割れが発生した。
事象 本割れ形態は枝分れの多い微小な割れが複雑形状で進行しており、鋭敏化13Crステンレス鋼固有の活性経路型応力腐食割れと思われる。
経過 従来、インペラ材料はSNCM鋼を使用していたが、大気環境条件の汚染に伴い、インペラの著しい腐食減肉が顕在化し、代替材料として13Crステンレス鋼の使用を計画した。しかし、本鋼における耐食性や耐応力腐食割れ性は十分明らかでないまま、設計し使用した。損傷発生のシナリオは以下のようである。
(1)インペラ用13Cr鋼の焼飩条件を、高硬度あるいは低強度を避け決定した結果、不幸にも鋭敏化処理材となっていた。なお、本鋼ではCr炭化物析出サイトがマルテンサイトラス境界になり、その地点が割れ状に溶解する。
(2)一方、ターボ圧縮機装置内環境は、粒界応力腐食割れが発生しやすい酸性・酸化性条件を形成していた。
(3)また、本インペラは周速350m/sで回転しており、羽根付根の付与応力は降伏応力程度の値に達している。
(4)これらの結果、材料-環境-応力の応力腐食割れ発生条件を全て満足し本損傷が発生したものと推定される。
原因 本割れが発生する環境側原因を検討した結果、図1の関係が明らかになった。すなわち、ターボ圧縮機構造物内における空気流れは、4段の圧縮と冷却過程において汚染大気成分が濃縮され、インタークーラ銅管を腐食させる。その銅腐食生成物(Antrerite)がインペラに流入すると、堆積物下に酸性で酸化性の強腐食性環境を形成させる。この環境が、鋭敏化13Crステンレス鋼の応力腐食割れを発生させるものと考えられる。
対処 応力腐食割れ対策は、材料、環境、応力のいずれかを変更する必要がある。当面の対策は比較的対策が容易な装置内水分の除去を試みた。これは空気の圧縮と冷却に伴ない発生する水分をインタークーラ出口側で除去する手法である。しかし、1段~4段まで存在するインペラの内、結露する地点(腐食発生地点)が若干後段側に移動しただけで、有効な対策にならなかった。
対策 本装置における応力腐食割れ防止策の恒久対策は、まず、環境条件の十分な改良である。すなわち、インタークーラ銅管の腐食生成物がインペラに付着することで重大な腐食環境を生成すると考えられるので、銅管に換えてTi合金管を使用することが有効と思われる。
知識化 応力腐食割れが発生する材料としては、18-8ステンレス鋼がよく知られている。しかし、マルテンサイト系ステンレス鋼についてはほとんど記載されていない。しかし、記載がないことは割れが発生しないことを保障するものではない。この点に関し十分な認識が必要である。詳細に検討すると、鋭敏化もするし、環境条件が整えばAPC型SCCもちゃんと生じるのである。
背景 一般に新しい回転機械の設計に、腐食損傷を考慮しつつ進めることはほとんどない。腐食損傷が発生してから、大騒ぎするのが常である。
よもやま話 今回の如くの失敗は、技術伝承されることが少なく、設計担当者が変われば、元どおりである。同じ失敗を何度も何度も、繰り返している。
シナリオ
主シナリオ 無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、13Crステンレス鋼、熱処理不良、鋭敏化、粒界腐食、応力腐食割れ、破損、大規模破損、破裂
情報源 尾崎敏範、刑部一郎、石川雄一:材料と環境、37,608(1988)
物的被害 酸素供給が絶たれたので、化学工場や製鉄所が停止した。
マルチメディアファイル 図1.ターボ圧縮機構造物内における汚染大気成分の濃縮状況
分野 材料
データ作成者 尾崎 敏範 (元(株)日立製作所)
小林 英男 (東京工業大学)