事例名称 |
密閉した海水中における電気防食に伴うステンレス鋼の全面腐食損傷 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1980年 |
事例発生地 |
日本 |
事例発生場所 |
火力発電所 |
機器 |
海水ポンプ |
事例概要 |
密閉した海水環境中で外部電源方式の電気防食を行うと、陽極より塩素ガスが発生し、重大な腐食損傷に到ることがある。 |
事象 |
図2はSCS13ステンレス鋳鋼製海水ポンプ羽根車表面の拡大写真である。本部品は3ヶ月前までは全く腐食損傷していなかったが、運転休止状態で管路を閉鎖し、再び検査した結果、ステンレス鋼とは思えないほど著しく全面腐食した。局部的には2~7mmの腐食浸食にも達している。なお、本部品の化学成分や金属組織は健全である。 図3は本ポンプの配管概要である。バルブを閉じた密閉配管内に海水ポンプ羽根車が存在し、外部電源方式で電気防食していた。その結果、陽極側より海水の電気分解反応により塩素ガスが継続して発生したものと思われる。その結果、密閉された海水の残留塩素濃度は、著しく高濃度な腐食性環境になっていたものと推定され(測定値は不明)、ステンレス鋼と言えど、腐食損傷したものと推測される。 |
経過 |
上述した現象の検証データを図4に示す。本図はSUS304ステンレス鋼における残留塩素濃度-流速-腐食速度の関係である。腐食速度は流速が小さく、残留塩素濃度が高い環境において大きな腐食速度を示している。本挙動は残留塩素が著しく高い酸化力を有し、低流速下では不動態皮膜の安定化に寄与する溶存酸素が欠乏する結果生じたものと思われる。その結果、ステンレス鋼と言えど、海水環境中では著しく大きな腐食速度を有すものと推測される。従って、図2に示したステンレス鋼部品の腐食損傷は静止海水中における高濃度残留塩素による全面腐食と推察される。上記環境が密閉環境でなければ、残留塩素の蓄積が生じなかったであろうし、ポンプが静止(流速:ゼロ)していなければ、腐食損傷は低減されていたと推測される |
原因 |
海水環境中における電気防食は、通常状態であれば極めて優れた防食効果を示す。しかし、密封環境下で継続的に大電流を与える方式は、上記の弊害を発生する可能性がある。本損傷原因は、残留塩素が継続して発生する電解条件の付与およびその蓄積条件、設定流速などの悪条件が重なって発生したものと推測される。 |
対処 |
外部電源方式による電気防食では、残留塩素の蓄積が生じないよう配管流路に工夫が必要である。また、付与電流量を必要最低限に抑えることも塩素ガスの発生量低減に有効と思われる。 |
対策 |
外部電源方式電気防食に換え流電防食方式とすれば、基本的に塩素ガスの発生がないので好都合である。また、現方式においてバルブを全閉とせず、多少のリークが生じるよう配管構成を工夫すれば高濃度残留塩素環境が形成されないものと思われる。 |
知識化 |
外部電源方式による電気防食には、思わぬところに落とし穴があることに注意すべきである。また、付与電流を過剰に与えると材料によっては、水素脆化割れや塗膜の剥離が生じるなどの弊害も生じやすく、機器構成を考慮した設定条件の最適化に努めるべきである。 |
背景 |
外部電源方式の電気防食は専門業者に設計施工を依頼することが多い。一般に付与電流量が多いと、防食が達成されやすく工事費用も稼げるので、業者は過剰なまでの大電流を設定しがちである。しかし、その弊害もあることを認識すべきである。上記損傷はその一例とも見ることも出来る。 |
後日談 |
電気防食も使用条件を誤ると、腐食損傷に到ることがある点に注意すべきである。 |
データベース登録の 動機 |
良いことだらけと思われがちな電気防食にも、落とし穴があることが新規情報である。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、損傷、腐食、全面腐食
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情報源 |
A社未公開報告書(1980)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
海水ポンプ羽根車の修理・新生 |
被害金額 |
数百万円 |
マルチメディアファイル |
図2.高濃度残留塩素環境中におけるSCS13鋼の全面腐食損傷
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図3.密閉した海水中における電気防食による残留塩素の発生状況
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図4.残留塩素含有淡水中におけるSUS304鋼の平均腐食速度
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分野 |
材料
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データ作成者 |
尾崎 敏範 (元(株)日立製作所)
小林 英男 (東京工業大学)
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