失敗事例

事例名称 天井クレーンガーダが折損し落下
代表図
事例発生日付 1986年10月
事例発生地 福岡県北九州市
事例発生場所 セメント工場
機器 天井走行クレーン
事例概要 天井クレーンを用いて石灰石を運搬中、ガーダの主桁下弦材が折損してクレーンがランウエイから落下し、運転席がストレージホッパーのコンクリート壁に激突してオペレータ2名が死亡。
事象 吊上げ荷重5ton,バケット重量2.5ton,揚程16.5mのバケット付きの天井クレーンで石灰石を運搬中、以前に補修を施していたガーダの主桁下弦材が破断して荷とともにガーダが落下し、ガーダの下部に取り付けられていた運転室がストレージホッパーのコンクリート壁に激突してオペレータ2名が死亡した。このクレーンは設置されてから約25年間使用されており、これまでの稼働状況から被災するまでの繰り返し数を推定すると225,000回程度と判断される。このガーダはトラス構造で構成されており、スパンは21mであって、損壊箇所はスパン中央の従動側主桁のガセット取付け部であった。クレーンの落下状況を図1に示す。
経過 このクレーンは落下するまでに、ガーダの同一箇所に何回か疲労き裂が発生しており、補修が行われていた。すなわち、破断箇所は図2に示すように、赤く錆びた破面の山形鋼(100×100×10)の上に新しい破面を有する山形鋼が溶接されており、新しい破面には明確なビーチマークが多数残されていて、このガーダが疲労によって損壊したことが確認された。また、赤く錆びた破面にも疲労の痕跡が僅かに見られ、さらに若干の溶接金属が付着していた。これらの破面の状況から災害が発生するまでの経過を推定すると、最初にガセット取付け部の端から山形鋼で作られた主桁に疲労き裂が発生進展したので、き裂箇所を溶接により補修して使用していた。しかし、溶接による応力集中と残留応力により再び疲労き裂が発生進展したので、この箇所に山形鋼を重ねてその周囲を溶接して補修して使用していた結果、補修した山形鋼も疲労して損壊したものと推察される。
原因 フォールトツリー解析結果を図3に、イベントツリー解析結果を図4に示す。
トロリ、電気箱、運転席等の重量が不明であったが、同規模のクレーンを参照してそれらの重量を推定し、部材力並びに下弦材の応力を算定した。その結果、下弦材の引張り応力は12.4kgf/mm2であって使用材料の許容応力14kgf/mm2よりも僅かに低い値となっていた。このクレーンは、バケットで石灰石を運搬していたために つり上げ荷重一杯の5tonの荷を常に吊っていたことや、かなりの衝撃荷重が作用する状態で使用されていたために、斜材と下弦材とを接続するガセット近傍の高応力集中部から疲労き裂が発生・進展し、破断に至ったと考えられる。
このクレーンの使用状態と破断までの繰り返し数を参照にして、JIS B8821のクレーン構造規格によるクレーン群の分類を見ると3群に属するもので、疲労に対してかなり厳しい設計が必要であった。しかし、トラス構造のクレーンに対しては疲労設計基準や疲労データが整備されていない場合が多く、このクレーンにおいても、最大応力が許容応力以下であれば良いとする当時の設計基準を採用しており、特別な疲労設計は行われていなかった。このため、高い引張り応力が発生するスパン中央の下弦材にガセットを取り付けた部分から疲労き裂が発生・進展した。その後、溶接補修やき裂部分を山形鋼でカバーする補修方法が採られてきたが、補修方法が不適切であり、また、補修した場合の強度について検討がなされておらず、さらに、つり上げ荷重を低下する措置を講じることなく損傷以前と同じ5tonで使用されていた。このため、補修した山形鋼に疲労き裂が進展し、最終的には下弦材が完全に破断分離して、クレーンがランウエイから約15m下の採石置き場に落下した。
対処 最初に疲労き裂が進展したときには溶接によりき裂を埋める方法により補修がなされたが、ガウジング等によりき裂を除去せずに単に部材の表面から溶接金属で埋めただけであったため、使用後直ちにき裂が補修溶接箇所に発生した。そこで、き裂部分を山形鋼でパッチを当てるような補修を施したが、このような補修方法では単にき裂が表面から見えなくなるだけであって、パッチの下にはき裂が存在しており殆ど補修の効果が期待できないような対処の方法が採られていた。
知識化 この事故は疲労設計がなされていないためであったが、設計当時トラス構造のクレーンについては疲労設計基準や指針が整備されていなかった。最近のクレーン構造部分はトラス構造から溶接による板構造が主流となっている。また、JIS B8821をはじめ各種の設計基準が示されている。しかし、クレーンや他の鋼構造物において疲労き裂がときどき発見される。このような疲労き裂に対してパッチを当てた補修がなされる場合があるが、この事故からも明らかなように、補修の効果はあまり期待できない。補修方法と疲労強度の関係について調べられた結果によれば、き裂のある板に片側からパッチを当てた場合には200万回疲労強度が約26MPaであって、クレーンで要求されている設計疲労強度の最低限度36MPaに達していない(図5)。したがって一方からパッチを当てるような補修方法は採用すべきではない。なお、き裂が発見された場合にはき裂をガウジング等で削除し、溶接金属でき裂箇所を完全に埋めた後、応力集中を軽減するために溶接金属をグラインダー仕上げするか、または両側から当板をした後その周囲を仕上げる等の方法を採用することが必要である。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、狭い視野、規格不良、計画・設計、計画不良、設計不良、疲労設計なし、クレーン、ガーダ、破損、破壊・損傷、疲労、破断、二次災害、損壊、落下
情報源 産業安全研究所特別研究報告 NIIS-SRR-NO15(1996)
死者数 2
マルチメディアファイル 図1.天井クレーンの落下状況
図2.損傷部位の破面の様相
図3.天井クレーン落下事故のフォールトツリー
図4.クレーンガーダの損壊のイベントツリー解析
図5.補修方法と疲労強度の関係
分野 材料
データ作成者 橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)