失敗事例

事例名称 溶接欠陥に起因する天井クレーンガーダの疲労損傷
代表図
事例発生日付 1984年02月
事例発生地 愛知県名古屋市
事例発生場所 製鉄工場
機器 天井走行クレーン
事例概要 製鉄工場において、天井クレーンを用いて製品であるコイルをつり上げ中、クレーンのガーダ下弦材の溶接箇所が損壊し、使用不能になった。
事象 製鉄工場において、天井クレーンを用いて製品であるコイルをつり上げ中、クレーンのガーダ下弦材の溶接箇所が損壊し、使用不能になった。折損した下弦材は幅200mm,厚さ8mmのフランジに高さ150mm,厚さ8mmのウエッブをすみ肉溶接した部材であって、この部材のフランジ面同士を突き合わせ溶接した箇所に未溶接部が存在し、そこを起点として疲労き裂がウエッブに進展して下弦材が破断した。
経過 製鉄工場のコイルヤードにおいて、つり上げ荷重10tonの天井クレーンに取り付けられたC型フックでコイルをつり上げ、コイル台車横まで運搬し、一旦停止して玉掛者が手でコイルの向きを変えようとしたとき、異常音の発生と同時に粉塵が飛散して運転不能となった。点検の結果、クレーンのガーダ下弦材の溶接箇所が損壊していることが判明した。また、ガーダ上弦材が約300mm下方に変形した他、補桁や斜材に曲がりやサドルに若干のねじれが発生した。なお、事故時につり上げていた荷(C型フック+コイル)の重量は、約9.9tonである。
被災したクレーンは図1に示すようにトラスガーダ構造のもので、スパンは17m、揚程10m、巻き上げ速度10m/min, ガーダ、クラブ、サドルその他クレーンガーダ関連品の総重量は約20tonである。このクレーンは被災するまでに約17年使用されており、総繰り返し数は153,000回程度と推定される。作業状態から推定されるつり上げ荷重と繰り返し数の概要は、定格荷重10tonに近い荷重、8ton程度の荷重および6ton程度の荷重のそれぞれに対して各36,000回程度、5ton以下の比較的軽荷重のつり上げ回数は45,000回程度である。なお、このクレーンは当初機上操作方式であったが、1978年にペンダント床上操作方式に改造された。
原因 フォールトツリー解析結果を図2に、イベントツリー解析結果を図3に示す。
クレーンガーダの折損はガーダ下弦材の水平部材であり、折損位置はスパンのほぼ中央であった。折損した水平部材は幅200mm,厚さ8mmのフランジに高さ150mm,厚さ8mmのウエッブをすみ肉溶接したいわゆるT継手が用いられていたが、このフランジ面同士を突き合わせ溶接した箇所を起点として疲労破壊が生じていた。破面には、フランジ外周部のほぼ全域に2~2.5mmの深さまで錆びた破面が残されていたが、この錆びた部分は溶接金属が破断した部分であって、この部分はフランジ断面の約50%に達していた。なお、フランジ外表面から2~2.5mm入った内部ではガスカットの痕跡が残されていて、フランジ内部は溶接が施工されなかったことを示していた(図4)。この未溶接部の存在により、ウエッブを含む下弦材全体の断面積は設計寸法の71%程度となっていた。一方、ウエッブの破面にはビーチマークが形成されており、したがって、フランジに残された未溶接部を起点として疲労き裂がウエッブに向かって進展し、破壊に至ったことが判明した。
このクレーンに定格荷重である10tonが作用したと仮定して、破損個所の下弦材の部材力を求めた結果、37.5tonであった。未溶着部が存在しない場合に下弦材における引張り応力は13.4kgf/mm2であって、部材の許容応力14kgf/mm2以下となっていた。一方、未溶着部を除いた真断面に対する応力は18.8kgf/mm2であって、許容応力を大きく越えていた。
損傷した下弦材は形鋼の突き合わせ継手として、クレーン鋼構造部分の設計基準(JIS B8821)を用いて疲労強度について検討した。この場合、欠陥がない下弦材に荷をつらない場合に最小応力が発生すると仮定すると、最小応力は1.7kgf/mm2となる。したがって、下弦材の応力範囲(全振幅)は11.7kgf/mm2であるので、切り欠き群を3として疲労強度を求めると12.2kgf/mm2となる。このため、下弦材に作用する応力範囲の方が小さく、欠陥が存在しない場合には溶接部で疲労破壊する可能性は比較的少ないと考えられる。しかし、欠陥が存在しない場合においても下弦の応力範囲と疲労強度は近く、もう少しの設計裕度が望まれる。
対処 クレーンの損傷原因が下弦材の溶接不良が原因であったので、上弦材と下弦材のそれぞれについて、フランジ溶接部を超音波探傷装置を用いて検査を行った。その結果、数カ所で未溶接部が検出され、未溶接の領域はフランジ断面積の25~30%に達していた。
このうち一部はガウジング後溶接を行い、さらにタブプレートを取り付けた。また、切断した下弦材や変形した上弦材は新品のものと交換し、溶接により取り付けた。これらの溶接部は、いずれもX線検査を行って欠陥が発生していないことを確認した。また、強度についての見直しを行い、一部に補強する工事も行った。
知識化 クレーンのガーダのように機能上や安全上重要部材については、溶接後非破壊検査を実施して、溶接欠陥を排除する必要がある。また、欠陥や損傷が見つかり、溶接による補修を実施する場合には、欠陥や新たな応力集中源が発生しないように、十分な配慮が必要である。さらに、補修後の強度評価を行い、場合によってはつり上げ荷重の軽減等の対策が必要である。                              
天井走行クレーンは一般に長期間使用されており、溶接部やサドル部等の高応力集中箇所に疲労き裂が発生する場合も少なくないので、他のクレーンの損傷例をデータベース化して、それを参照して検査期間やメンテナンス間隔を設定し、検査や保守を実施する事が生産性を向上させるためにも、また、安全を確保する観点からも重要である。
シナリオ
主シナリオ 誤判断、狭い視野、規格不良、疲労設計なし、使用、保守・修理、溶接補修、溶接欠陥、クレーン、ガーダ、使用、運転・使用、機械の運転・操作、破損、破壊・損傷、疲労、破損・変形、塑性変形、クレーン使用不能
情報源 産業安全研究所特別研究報告
死者数 0
負傷者数 0
マルチメディアファイル 図1.クレーンの概要
図2.天井クレーンガーダ折損事故のフォールトツリー
図3.クレーンガーダの損壊のイベントツリー解析
図4.破断部の状況
分野 材料
データ作成者 橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)