事例名称 |
溶接欠陥から発生した疲労き裂による天井クレーンガーダの落下 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1996年08月 |
事例発生地 |
千葉県 |
事例発生場所 |
製鉄工場 |
機器 |
天井走行クレーン |
事例概要 |
製鉄工場において、天井クレーンを用いて製品のコイルを運搬し停止しようとした際に、ボックス断面を有するガーダが疲労破壊してつり荷と共にクレーンガーダが落下した。 |
事象 |
製鉄工場において、つり上げ荷重25.6ton、定格荷重25.0tonの天井クレーンを用いて製品のコイル21.9tonをつり上げ運搬中、制動操作を行った際にクレーンガーダがレール中心から9m離れた箇所のスパンの約1/3の付近で破断し、つり荷とともにガーダが落下した(図1)。 |
経過 |
落下したクレーンは1965年に製作され、被災するまでの31年間に約64万回の繰り返し荷重(荷の昇降回数)を受けていたと推察される。このクレーンはスパンが28mのボックス断面を有する同一寸法の2本のガーダ上にトロリ(9.2ton)が乗る構造となっており、破断は一方のガーダで発生した。なお、ガーダ、トロリ、サドル、走行装置、その他の総重量は46.8tonである。破断部の断面は、幅が700mm、高さが1647mmの箱形をしており、底板9または12mm、腹板6mm、上板12mmのSS400の鋼板で作られていた(図2)。き裂はクレーン主桁底板に作られた溶接欠陥を起点として発生し腹板まで進展していたが、気付かずに使用していたため荷重に耐えられず、ガーダが破断して落下した。 |
原因 |
フォールトツリー結果を図3に、イベントツリー解析結果を図4に示す。 き裂はガーダの底板と腹板を溶接した角の部分に作られた溶接欠陥(クレータ)を起点として発生しており、一方のき裂は起点の上方の非溶接の腹板を上板に向かって進展し、他方のき裂は突き合わせ溶接した底板を貫通後反対側の腹板を上板に向かって進展していた。破断面を調査した結果、起点付近には最初に塗装した色と同じ黄色いペンキが付着しており、製作時に作られた溶接欠陥が起点となったと推察される。また、底板は厚さが12mmの板と9mmの板を突き合わせした箇所が破断していて、この箇所では開先が取られておらず、しかも溶け込みが不十分で板厚の中央部分は溶接がなされていなかった。このため底板の板厚中心付近では、溶接以前に板をガスカットした痕跡が明瞭に残されていた(図5)。また、破断面には疲労破壊の特徴を示すビーチマークが残されており、溶接欠陥から発生した疲労き裂が原因でガーダが落下したことが分かった。さらに破面の一部を電子顕微鏡で観察した結果、ストライエーションが多数観察され、疲労破壊であることが確認された。なお、疲労破壊したと推定されたき裂の長さを実測した結果、一方の腹板には起点から上板方向に約1100mm、他方では起点から底板の幅700mmを通過してさらに腹板を約680mm進展して全長さが約1800mmとなっていた(図6)。破断したガーダは前記したように、幅が700mm、高さが1647mmの長方形をしていたので、両腹板の平均き裂はガーダ高さの約半分の長さに達していた。クレーンの保守は定期的に行われ、キャンバーのたわみも計測されていたが、き裂が入ったと推定される年においても変化は小さく、キャンバーの変化からガーダのき裂を見つけることは出来なかった。 同一仕様の天井クレーンを用いてガーダの底板と上板に歪みゲージを貼り、破損個所に対応する位置で応力測定を行った結果、つり具のみをつり上げる場合は1.7~2.8kg/mm2, つり具にコイル19.8tonをつけて稼働した場合には5.7~6.8kg/mm2 であった。したがって、底板に作用する応力範囲としては4kg/mm2 程度と推定される。この底板は横突合せ溶接継手が用いられていたので、欠陥が存在しない場合の200万回疲労強度は非仕上げの場合においても約6.5 kg/mm2 (65MPa)であるので、疲労破壊を起こす可能性は少ない。このため、破壊は板厚が異なる非対称継目の底板溶接部に作られたクレータおよび未溶接部が原因で疲労き裂が腹板に進展し、破壊に至った。 |
対処 |
ほぼ同時期に作られた他の天井クレーンについて損傷状況を調査した結果、2台のクレーンにおいてガーダの底板溶接部においてき裂が見つかり、き裂をガウジングによって除去後溶接補修を行い、さらに補強板を取り付けた。 |
知識化 |
1960年代の高度経済成長期に製造されたクレーンの中には溶接技術が十分でないものや非破壊検査が実施されていないクレーンも少なくなく、30年程度使用したクレーンの中には溶接部や高応力集中部等き裂や損傷等が見られる場合がある。このような損傷に対応するため、経年クレーンに対する損傷データベースを作成して、それを活用した重点点検箇所の設定や損傷検出方法等、新たなメンテナンス体制を構築する必要がある。 本クレーンでは落下する以前に約1800mmにも達する長いき裂が存在していたが、き裂を発見することができなかった。クレーンの構造部分は1年以内に定期自主検査の励行が法令によって定められているが、経年クレーンに対しては独自に検査間隔を設定して損傷検出や補修等を行うことが必要である。 |
シナリオ |
主シナリオ
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不注意、理解不足、リスク認識不足、製作、ハード製作、機械・機器の製造、溶接、溶接欠陥、クレーン、ガーダ、使用、保守・修理、点検、定期検査不十分、破損、破壊・損傷、疲労、クレーンガーダ落下
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図1.クレーンの落下状況
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図2.クレーンの概要
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図3.天井クレーンガーダ落下事故のフォールトツリー
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図4.クレーンガーダの落下事故のイベントツリー解析
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図5.起点付近の破面の様相
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図6.疲労き裂が断面で占める割合
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分野 |
材料
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データ作成者 |
橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)
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