事例名称 |
天井クレーンフックの加工不適切による疲労破壊 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1980年05月 |
事例発生地 |
神奈川県 |
事例発生場所 |
製鉄工場 |
機器 |
クレーン用フック |
事例概要 |
製鉄工場で20トンフック2個を用いて鋼材を相づり中、一方のフックが破断して荷と共にフックが落下した。原因はフックのシャンクとネジの間に、機械加工時に作られた切り欠きが起点となって疲労破壊したためであった。 |
事象 |
製鉄工場において、天井クレーンに備えられたつり上げ荷重20tonのフック2個のそれぞれの先に、チェーンを介して取り付けたリフティングマグネット(質量820kg)を用いて鋼材を相つり運搬中、一方のフックがトラニオン付近から破断し、荷と共にフックが落下した。図面に示されたフックの寸法は長さが847mm、ネジ部外径85mm、シャンク直径87mm、ネジ逃げ部直径75mmであった。破断した箇所はシャンクとネジの間のネジの逃げ部であって、この位置での機械加工はかなり粗雑で、切削時に作られたバイト目が多数見られ、さらに重複切り欠きが作られていた。破面は外周部から中心に向かって疲労破面が見られ、中心部には楕円状の脆性破面が残されていた。なお、この脆性破面は全断面の約3割を占めていた。 |
経過 |
このフックは新製されてから約2年使用されており、稼働率から推定される破断までの繰り返し数は、約3.5x10^5回である。 |
原因 |
起点となった逃げ部の寸法を実測した結果、直径が73.30mmであって、製作図面に示されていた寸法よりも小さかった。フックから試験片を切り出し引張り試験を行った結果、降伏点26.0kgf/mm2、引張り強さ43.0kgf/mm2、伸び35%、絞り68%であった。また、曲率半径1mmの環状切り欠き付き試験片を用いた両振り疲労限度は11.9kgf/mm2であった。フックの化学成分は0.25%C、0.22%Si、0.51%Mn、0.029%P、0.022%Sであった。フックに質量20tonの荷が常に負荷されるとして、動荷重係数を1.7に仮定して逃げ部の公称応力を求めた結果、8.1kgf/mm2であった。逃げ部には重複切り欠きが作られていたので、それぞれの切り欠き係数の積として重複切り欠き係数を求めたところ1.56であった。さらにバイト目等の表面仕上げ状況を考慮して、フックから切り出した試験片の両振り疲労試験結果から逃げ部の片振り疲労限度を推定した結果、6.92kgf/mm2であった。この値は逃げ部の公称応力よりも小さく、したがって逃げ部から疲労破壊したことが判明した。なお、疲労破壊の直接の原因は、ネジ逃げ部の機械加工が適切でなく、重複切り欠きが作られて設計図に示された寸法よりも径が小さかったためである。 |
対処 |
チェーンから衝撃吸収特性の優れたワイヤーロープに変更した。 |
シナリオ |
主シナリオ
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無知、知識不足、経験不足、製作、ハード製作、機械・機器の製造、クレーンフック、ネジ加工、逃げ部重複切り欠き、破損、破壊・損傷、疲労、応力集中、逃げ部破断、フックの落下
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図1.クレーンフックの破面
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分野 |
材料
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データ作成者 |
橘内 良雄 ((社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)
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