事例名称 |
アロハ航空機の胴体天井吹き飛び |
代表図 |
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事例発生日付 |
1988年04月28日 |
事例発生地 |
マウイ島上空 |
事例発生場所 |
アロハ航空B-737型機 |
事例概要 |
1988年4月28日、アロハ航空B-737型機がハワイ島のヒロを出発してオアフ島のホノルルへ向かう途中、マウイ島上空7,200m付近でコックピット後部の客席部分が突然吹き飛び、客室乗務員一人が機外に吸い出されたが、幸い制御系の一部が無事であったため墜落をまぬがれマウイ島の空港に緊急着陸を行った(図2参照)。 この事故は機体の整備体制にも問題があったために発生したものであり、運航会社が保守・整備を疎かにしてそれが原因で事故が発生した場合には取り返しのつかない大変な結果を産むことを示唆したものである。 |
事象 |
アロハ航空のボーイング737型機がハワイ島のヒロ空港を離陸しオアフ島ホノルル空港へ向かう途中、巡航高度7,200mに達した辺りで機体の内外圧力差により、予め経年損傷を受けていた航空機の胴体のうち操縦室の後ろ部分から数メートルの長さにわたって客室部分の構造が大規模に破壊飛散した。このため、客室乗務員一名が機外に吸い出され行方不明となった。航空機はこのような損傷を受けたにも拘わらず幸運にも一系統の油圧制御システムが生き残ったために、最寄りのマウイ島の空港への緊急着陸に成功した。 |
経過 |
当該機は1969年に製造され19年を経たいわゆる経年機で、事故に至るまで89,600回余りの与圧サイクルが繰返されていた。運航会社による十分な整備点検が行われていなかった。 |
原因 |
航空機の内外圧力差が最大になったあたりで機体の一部が大きく裂けた理由は、腐食等に拠って多数のリベット孔がほぼ同時に損傷する、いわゆるマルチサイト損傷が一気につながったためである。マルチサイト損傷が発生した理由は図3に示すように、機体外板を製造過程において接合する際に、荷重伝達をよくする目的で接合面に用いたスクリムクロスが常温接着によって接着されていたため、永年に渡る水分の吸着と脆化によっていたるところで剥離を生じ、力がクロスの面せん断によって均等に伝えることができず、却って接合板のリベットの弛みの原因となり、ファスナ部の各リベット孔からのマルチサイト損傷を助長させる結果となっていた。高温で加熱接着する方式を取っておけば水分の吸着が起こりにくく早期に劣化することはなかった。また、事故に至る以前に機体表面にすでに目視によっても容易に発見可能なき裂が存在していたにもかかわらずこれが見逃されていた理由は航空会社が必要な整備・点検作業を怠っていたためである。 図4にイベントツリー図を、図5にフォールトツリー図を示す。 |
対策 |
(1) 布材を介した金属接着継手は冷間接着(常温接着)では空気中水分の吸湿によって容易に劣化しやすいので耐吸湿特性を改善するために加熱接着とする。 (2) 航空機の耐空性を維持するために運航会社は保守整備に手を抜くことなく、決められた整備点検マニュアルを遵守するよう整備部門を指導する。 |
知識化 |
アロハ航空が運航経費節減のため、組織ぐるみで整備点検を行わず手抜き整備を黙認していたことが事故原因調査によって明らかになった。定期的な保守点検整備は安全運航の基本であるので運航会社は決してこれを疎かにしてならない。 |
背景 |
アロハ航空は事故時点まで、経営状態の逼迫に伴い会社ぐるみ利益優先で、経費節減の立場から必要最低限の整備さえも疎かにし、乗客が搭乗の際に視認したような大きな損傷までも見逃していた。 |
後日談 |
FAA(連邦航空局)はこの事故に至るまで、航空機の耐久性設計・製造管理について航空機メーカーの指導監督にも関与していた。しかし、メーカーとの接触を維持していることは、設計・製造・維持・管理等に安全上の問題が生じた場合には監督官庁としてメーカーサイドに厳しい立場を貫くことが困難になることがあるとの見解から、以後FAAは航空機の耐久性設計・製造管理分野にタッチせず、運航安全審査分野業務に徹するとの方針転換のきっかけとなった。 わが国では同種の事故が起こった際、監督官庁の責任を問い、米国の対応とは逆に国は設計や製造により深く関与すべきだと考える人達もいる。何処まで国の責任で行うべきかについて示唆に富んだ事例となっている。 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、作業管理不良、無知、知識不足、冷間接着構造の耐久性、使用、保守・修理、検査無、不良行為、倫理道徳違反、利潤追求優先、使用、輸送・貯蔵、航空輸送、不良現象、化学現象、複合材接着継手、材料劣化、破損、大規模破損、機体構造ハクリ、緊急着陸、組織の損失、社会的損失、信用失墜
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情報源 |
Aviation Week & Space Technology, Vol. 128 (1988, May 16) p.16
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死者数 |
1 |
社会への影響 |
経年機の構造健全性が改めて問題になり、また会社の安全対策の杜撰さが厳しく問われた。 |
マルチメディアファイル |
図2.胴体部分が大きく剥がれて緊急着陸したB-737
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図3.B-737型機胴体の重ね継手構造
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図4.イベントツリー図
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図5.フォールトツリー図
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分野 |
材料
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データ作成者 |
寺田 博之 ((財)航空宇宙技術振興財団)
小林 英男 (東京工業大学)
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