失敗事例

事例名称 トラッククレーンのジブ座屈による死傷事故
代表図
事例発生日付 1974年02月
事例発生場所 製油所構内
機器 ラチスジブ式トラッククレーン(つり上げ荷重:127トン)
事例概要 廃ガス用ダクトの荷役作業の際,オーバーロードによりジブが座屈して,荷及びジブが落下,死者3名,重傷者2名が発生した.
事象 セミトレーラーで搬入された廃ガス用ダクト(質量:実測で29.85トン)を,つり上げ荷重127トンのトラッククレーン(ジブ長さ:57.91m)で作業半径:14mの位置でつり上げようとしたが,能力不足のため機体が傾斜したため,作業を中断して作業半径:9.5mの位置に設置しなおした.ダクトの重心上にフックを持ってくるためにジブを起こしたが,作業範囲であったため,起伏制限装置を解除して起こした.この状態で吊り上げを開始したところ,荷が1mほど上がった段階で,図に示す方向へ荷の流れが発生し,ジブがジブフートピンから16.9mのところで座屈し,荷及びジブが落下した.
原因 この作業は計画の際,ダクトの計算質量を27.38トン(この値は,当該クレーンの定格荷重が,ジブ長54.86mで,作業半径12mのとき27.5トンであるから,ギリギリである.)とし,つり具の質量を含めると予定より約4トンオーバーであったこと,及び,ジブ長さも54.86mで作業を実施する計画であったが,実際は,間違って57.91mにしたこと,即ち,荷の質量を間違ったこと,及び,ジブの構成を間違えたことが「ジブの座屈」 の直接原因となった.なお,クレーンを荷に近づけ過ぎたことで作業範囲外の作業となったため安全装置を解除してジブを起こしたが,このことによってジブバックストップによりジブが押し曲げられた形跡は存在しない.即ち,事前にジブが変形していたことによる座屈とは考えられない.座屈原因に関して,今回の事故発生時にジブにかかったと考えられる軸力をもとに,(1)ジブの鉛直面内の変形を考える曲げ座屈と(2)ジブの鉛直面に対して直角の変形を考える曲げ座屈について考察した結果,前者の場合は,主材の座屈した部分にかかる圧縮応力は,主材の座屈応力の0.45倍であったのに対して,後者の場合は,0.94倍,即ち,弾性安定限界の94%の荷重がかかったことになる.この計算には,ジブの初期たわみや荷重の偏心等の影響は考慮していないが,実際の構造物では,これらの不正確さのため容易に弾性安定限界を超えることになると考えられる.
対策 ・作業計画を正確な情報に基づいて作成する.
・面外座屈に対する強度計算の実施
知識化 ラチスジブ式の移動式クレーンでは,座屈強度に関しては,ジブの鉛直面内の座屈に対して鉛直面外の座屈の方がシビヤであるといえる.また,ジブの傾斜角が大きくなるほどこの傾向が強くなると考えられる.今回の事故は,ジブを起こし過ぎた状態,即ち,使用条件が規定されていない(定格荷重がない)ところで使用された稀なことであるが,鉛直面外の座屈に関する強度の吟味が不可欠であることを示唆するものである.
背景 当該トラッククレーンは外国メーカーとの技術提携によって製造されたもので,十分な稼動実績があり,類似事故等が発生していないという背景がある.
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、環境調査不足、規格過信、面外座屈の検討、価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、定格荷重がない領域での使用、計画・設計、流用設計、ライセンス生産、使用、運転・使用、過負荷、ジブ座屈破壊、破損、大規模破損、クレーンジブ倒壊、身体的被害、死亡、事故死(3名,他に負傷2名)
情報源 産業安全研究所技術資料 RIIS-TN-77-9(1978)
死者数 3
負傷者数 2
マルチメディアファイル 図1.事故時の配置図
分野 材料
データ作成者 河島 邦寿 (元(社)日本クレーン協会)
小林 英男 (東京工業大学)