事例名称 |
重油間接脱硫装置における熱交換器出口側配管からの水素ガスの漏洩と爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1989年03月06日 |
事例発生地 |
岡山県 倉敷市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
重油間接脱硫装置の反応器出口側の最下流の熱交換器出口T字管配管のキャップの一つが、腐食のため減肉し、開孔した。そこから漏洩した水素が爆発し、爆発の影響を受けた他の熱交換器から油が漏れ、油火災も発生し、被害を拡大させた。腐食の原因は元々のプロセス注入水の腐食媒体の濃度が高かったことに加え、改造工事の影響で当該熱交換器の流量が減ったため、濃縮度が上がった事及び行き止まり配管の構造によると推測された。 |
事象 |
石油精製の重油間接脱硫装置の平常運転中に、同装置の反応器出口側にある一連の熱交換器群の最下流にある反応物凝縮器(8連のエアフィンクーラー)Aの出口T字型配管のキャップ部から水素主体のガスが漏洩し、爆発した。図2参照 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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反応 |
水素化脱硫 |
物質 |
水素(hydrogen)、図4 |
減圧軽油(vacuum gas oil) |
事故の種類 |
漏洩、爆発、火災 |
経過 |
1989年3月6日00:32頃 シューという音がし、しばらくして爆発音とともに火災が発生し、爆発と同時に計器室、現場とも停電した。直ちに緊急停止を行った。 03:55頃 消防車出動した。周辺施設への冷却散水を行った。 06:30頃 鎮火の見通しを得た。 |
原因 |
間接脱硫反応器の出口側の一連の熱交換器群の最下流にある反応物凝縮器Aの出口のT字型配管のキャップ部(図2)が開口し、高圧水素が漏洩した。漏洩ガスが滞留したところで静電気などの原因で発火・爆発した。この爆風の影響で他の熱交換器も破損し、内部の重油が流出し油火災となり、火炎の熱影響により、機器・架台が損傷、被害を拡大させた。 |
対処 |
1.運転員は発災直後装置の緊急停止を行った。 2.直ちに消防隊が出動し周辺装置への冷却散水を実施した。さらに泡消火を行い鎮火した。 |
対策 |
1.水添脱硫設備について、局部腐食等の異常現象を把握し、これに適切に対処できるよう運転ならびに設備の管理体制を強化する。 2.施設の改造または新増設に際しての安全審査体制を強化するとともに、他の既存の設備の安全について再評価する。 3.(要望として)同種の脱硫設備を有する事業所では、当該事故個所の行き止まり流路配管部分の総点検を行うとともに、運転管理並びに設備管理上の安全性を再点検することが望ましい。 |
知識化 |
1.改造工事で初期の目的を達しても、よほど注意深く検討しないと安全面がなおざりになることがある。 2.同種の装置が数多くあっても、全く同じ条件のものはない。安全は一つ一つの装置ごとの特性を掴んで検討しないと意味がない。 3.行き止まり配管は色々なトラブルの原因になっている。行き止まり配管部に対する注意が必要であろう。 |
背景 |
1.当該熱交換器出口配管のキャップ部にスケールが沈積し、それによってプロセスに注入される凝縮水に含まれる水酸化アンモニウム、塩素などの腐食媒体による腐食が進行し、減肉させたと考えられる。また、キャップ部にダミーサポートが溶接されており、その熱応力も一因かもしれない。腐食媒体の濃度は当該装置では元々他社装置と比較すると、標準的な濃度より高い所で管理されていたのが特徴的である。1985年に反応器出口の熱交換器群をエネルギー回収の合理化のために熱交換器の追加とフローの変更を行った。そのため腐食媒体の当該熱交換器出口の濃縮度が上がっていた。また、発災個所は従来の一般的知見からは、腐食による減肉個所とは考えられてなかったため、肉厚測定の対象個所から外れていた。そのため早期に減肉を発見することはできなかった。 2.発災部は8基ある熱交換器の出口集合管の末端部で、行き止まり配管部である。行き止まり部では流れによる内容物の入替が起こりにくく、腐食媒体の濃度を局所的に増加させることがある。配管構造も一因になっていると考えられる。 |
よもやま話 |
☆ 化学装置は、やはり経験工学の域を抜けないのかと思わせられる事故例である。何とかこのような事故が起こらないようエンジニアリング手段は出来ないか。エンジニアの経験と調査能力頼みではまた同じ事が起こる。 |
データベース登録の 動機 |
改造工事で影響する範囲とそこに起こる変化を見定められなかった例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、周囲情報収集不足、計画・設計、計画不良、運転状況に不適、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、漏洩・爆発・火災、身体的被害、負傷、3名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額4.8億円
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情報源 |
河村祐治(安全工学協会編)、火災爆発事故事例集、コロナ社(2002)、p.90-96
中国通商産業局,岡山県、N石油(株)M製油所重油間接脱硫装置爆発事故調査報告書(1989)
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.51-53
危険物保安技術協会、危険物に係る事故事例、危険物事故事例セミナー(1996)、p.57-58
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負傷者数 |
3 |
物的被害 |
重油間接脱硫装置,高圧分離槽付近の配管,機器(空冷式熱交換器,ポンプ配管,計装機器,架構等約600平方m焼損,破損)が被災.構内半径1km範囲の建物(57棟)の窓ガラス等及び工場から約2.5km離れた建物等(6棟)の窓ガラス破損.水素ガス等14000N立方m,減圧軽油等30キロリットル焼失等. |
被害金額 |
4億8002万円(危険物に係る事故事例) |
マルチメディアファイル |
図2.出口ヘッダー外観図
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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