失敗事例

事例名称 ローリー充填所のトレンチ配管でインキワニスの漏洩
代表図
事例発生日付 1994年12月15日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 グラビア印刷インク用樹脂ワニスのローリー出荷線のトレンチ配管で、ガスケットの不適切な使用<材質と片締め>により漏洩した。トレンチカバーが鋼板製のため早期発見ができず、海上流出に至った。この事故も単純な行動災害ではないが、基本的にはヒューマンエラーの範疇に入る。
事象 石油樹脂製造工場のローリー充填所のトレンチ内に敷設した配管のフランジ部から、グラビア印刷インク用樹脂のワニスが漏洩した。その一部が地下埋設の配水管を通って、構外の排水口から海上へ流出した。配管敷設後10年目の事故であった。
 グラビア印刷用インク用樹脂ワニス: 石油樹脂58%をトルエン42%で溶解したものである。
プロセス 製造
単位工程 移送
単位工程フロー 図3.ローリー充填所フローシート
物質 印刷インクワニス
事故の種類 漏洩、環境汚染
経過 1994年12月15日06:00頃 交替組長が定時巡回し、海上確認したところ異常はなかった。
07:30頃 当日のローリー出荷に備え、当該のワニス循環・出荷線のスチーム加熱を行い、出荷ポンプを起動してタンク→ポンプ→タンクの循環を開始した。
08:00頃 ローリーへの積み込みを開始した。
09:30頃 ローリー充填完了、出荷ポンプを停止した。
09:40頃 市港湾局職員が京浜運河の当該事業所排水口付近で樹脂状物質の浮遊を発見した。当該事業所を訪問し、確認を求めた。
09:50頃 当該事業所従業員が海上の浮遊物質および排水口の位置から当該事業所の危険物(危険物第4類第1石油類のグラビア印刷インキ用樹脂ワニス)であることを確認した。
10:00頃 漏洩現場がローリー充填所のうちグラビア印刷インキワニス出荷線であることを確認し、構内漏洩箇所より油の回収を開始した。
原因 1.漏洩を起こした配管は呼び径3インチのスチーム抱線保温付き配管で、フランジ部からの漏洩であった。当該箇所に使用される正しいガスケットは外輪付のボルテックスガスケットであったが、実際に使用されていたガスケットは不適格品であり、当該油種には不適合であった。さらにガスケットの片締めがあった。締め付けの弱い部分から長期間にわたって徐々にガスケットが劣化したものと推測される。
2.トレンチであるにもかかわらず、その蓋が点検が容易なエクスパンデッドメタルではなく、鉄板であった。そのため、発見が遅れ、海上に流出した。
図2参照
対処 地上の漏洩油は当該事業所で回収し、海上流出油は海上共同防災の作業船により回収した。
対策 1.当該配管の全てのフランジを点検し、全数新しい正規のガスケットに交換した。
2.フランジ部の点検を容易にするため、フランジ部の保温を除去した。
3.トレンチカバーの一部を網状構造のエクスパンデッドメタルに交換し日常点検を容易にした。
4.配管施工方法を変更した。地上で吊り上げた状態でボルト締めをした後で、配管全部を吊り下ろす工法に変えた。これにより片締めが発生し難くなる。
5.定期修理工事時の現場管理の徹底: ガスケットの再使用防止と所定のガスケットが入ったことを確認するため、フランジ接合部の隙間を全周にわたりノギスと隙間ゲージで確認する。
知識化 1.規格には決定された理由がある。それを守ること、守らせることを前提に安全は維持される。ガスケットの材質がそれに当たる。
2.規格ではないが、ある方法を取ったら、それは何らかの理由がある。その理由を明確に理解しないと間違った設備、管理になりかねない。
3.一度セットされたものは、外観からはそれが正しいか否かを判断することは非常に難しい(この場合ガスケットの材質と片締め)。正しい選択、正しい作業などがあって、最終確認の意味がある。
背景 1.ガスケットの種類が間違っていたことの原因は、1984年に当該配管の気密試験を行った時に、閉止板を挿入したフランジ部に仮のガスケットを使い、その後正規のガスケットに戻すことを忘れていた。
2.ガスケットの片締めが考えられる。洩れ箇所のガスケットの厚みの分布と外観テストを行った。元の厚さ1.5mmに対し、破断したところで厚く、最大1.5mm程度を示し、それ以外では最小1.35mmであった。また、破断片はワニスが浸透しており、破断片の周辺はワニスが付着しているのが見られる。ほかの箇所ではワニスの付着や含侵は見られなかった。このことはガスケットの締め付け力が均一でなく(片締め)締め付け力のゆるかったところにトルエンが入り込んで、ガスケットの組織を壊していったと推測できる。
3.片締めの原因は工事方法にあった。トレンチ内に配管を下ろしてからボルト締めを行った。破断片のあった下側は工事条件が悪く、レンチなどが十分に使えなかった。
4.なぜ、構内で発見できず、海上まで流出させたか?もともとトレンチ配管(地中に埋設しないで、コンクリートで溝を作りそこに配管を敷設する。)は、間単に点検できない地中埋設配管とは異なり、常に点検ができるようにわざわざ溝を作って、そこに敷設する。そのうえ蓋を鉄製の蓋で覆って日常点検をできなくしている。
データベース登録の
動機
工事環境の悪さが生んだ事故例
シナリオ
主シナリオ 組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、理解不足、リスク認識不足、計画・設計、計画不良、工事計画不良、破損、破壊・損傷、ガスケット破損、二次災害、環境破壊、海上流出
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1995)
物的被害 シートパッキン1枚破損.グラビア印刷インキワニス陸上約454リットル,海上約89リットル
被害金額 27572円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
社会への影響 1994年12月15日9:40頃、市港湾局職員が塩浜運河のN樹脂排水口付近で樹脂状物質の浮遊を発見。海上に約89L漏洩
マルチメディアファイル 図2.漏洩箇所状況図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)