事例名称 |
ボトムローディング型タンクローリーの積み口先端弁から軽油の漏洩 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1999年05月22日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
軽油を積み込んでいたローリー充填所で、漏洩事故があった。ボトムローディングをしているローディングアーム先端のカプラー内のシャフトとリンクを固定しているスピロールピンに繰り返し応力が発生して、スピロールピンの端部を折損させた。折損したスピロールピンの金属片が、積込み中の内部流体に押されて下流側のハッチの先端弁の内弁ポペット弁座に到達した。その結果、ローディングアームを切り離した際に、タンクローリーの先端弁の内弁ポペットに噛み込み、内弁が完全に閉止できなかったために漏洩した。また、緊急時の対応に関する運転手の教育が徹底されていなかったため、適切な処置ができず、漏洩を拡大させた。 |
事象 |
ボトムローディング型のタンクローリーのタンクに軽油の積込みが終了したので、運転手がローリーの先端弁(アダプター)とローディングアーム先端のカプラーとを切り離したところ、ローリーの先端弁から軽油が漏洩した。図2参照 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
移送 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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物質 |
軽油(gas oil) |
事故の種類 |
漏洩 |
経過 |
1999年5月22日05:05 タンクローリーがローリー充填所に到着した。 05:15 タンクローリーは指示された積み場に入構し、運転手は積込み準備を開始した。 05:20 運転手は3油種を、指定されたハッチに積込みを開始した。 05:30頃 軽油の積込みが終了した。運転手は軽油のローディングアームのカプラーを切離したところタンクローリーの先端弁から軽油が漏洩した。運転手は漏洩が止まらないため、ハッチ底弁の故障と思い込み、底弁開閉スイッチを5~6回操作した。それでも漏洩が止まらないので、現場係員は他のハッチの積み込みを緊急遮断弁で停止した。運転手はローリー後部の底弁緊急遮断弁を閉止した。漏洩が止まったため、先端弁を点検したところ、先端弁弁座下部に金属片を認めた。内弁を押し開いて金属片を取り除き、弁が完全に閉止することを確認した。 |
原因 |
先端弁の弁座に金属片が噛み込まれて、完全閉止状態にならなかった。金属片はすぐにローディングアームのカプラーのシャフト押さえのスピロールピンとわかった。 |
対処 |
1.カプラーを予備品と交換し積み込みを終了させた。 2.漏洩した軽油はせっけん水と水により、オイリー系排水溝に流し、廃油回収にて回収した。 |
対策 |
1.ボトムローディング用の全てのローディングアームのカプラーを点検しスピロールピンを全数取り替える。 2.スピロールピンを板巻タイプから丸棒のテーパピンへの変更を検討する。また、カプラーの構造を変更し、スピロールピンに応力が掛からないようにする。 3.運転手向けの「緊急時対応手順」を見直し、積込み作業時の漏洩事故再発防止について「注意書き」を追記する。この改訂版にもとづき運転手への安全教育を行う。 4.ローリーステーション担当の保安繰油チームと協力会社の陸上出荷担当者全員に、この事故の原因と対策について説明し、再教育を行う。 |
知識化 |
1.全体システムから見ると、小さな部分のさらに小さな部品の不具合でも、事故は起こる。どんな細部でも十分な検討が必要になる。 2.駆動部があれば、それを支える部分には応力が、しかも繰り返し応力が発生する。 |
背景 |
1.ローディングアームのカプラーのスピロールピンが破損し、この破損片の一部がタンクローリー側先端弁の弁座に噛み込んだため、ローディングアームを切り離した際、先端弁が完全閉止にならなかった。 2.スピロールピンの破損原因の推定は以下の通りである。 (1) カプラーの開閉ハンドル操作によるシャフトの回転力が、リンクを通してスピロールピンに繰り返して曲げ応力を発生させ、支点となるスプロールピン突出部の付根に応力が集中した。 (2) 内部流体により、リンクがシャフトの軸方向に振動し、スピロールピンに繰り返し応力を発生させた。 この2方向の応力が作用しあったことにより、スピロールピンを外側ロールから徐々に破断し、最終的に折損した。 3.漏洩量が300Lと多くなった。その原因は運転手がハッチ底弁の故障と思い込み、底弁の開閉操作を数回行ったため底弁が開き、積込み配管部の軽油だけでなく、ハッチからも軽油が流れてきた。 |
よもやま話 |
カプラーのスピロールピンの繰り返し応力によるトラブルの報告は、多くはないだろう。この事故が最初の報告かもしれない。おそらく、設計者の考えた応力レベルは小さいのかと思う(通常は定量弁が働き流れが止まってから閉止し、流れが始まる前に開ける)。ところが実際には取付方法の微妙な違いや、流体の振動などで、思いも寄らぬ応力を受けていた可能性があったのではないだろうか。実装置に使用するものは、このようにして徐々に改良が加えられていくものなのだろう。 |
データベース登録の 動機 |
小さな部品の強度不足から大きなトラブル発生の可能性の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、未知の事象発生、使用者側責任外、計画・設計、計画不良、設計不良(メーカー)、破損、破壊・損傷、破断、不良現象、機械現象、異物噛み込み、二次災害、損壊、漏洩
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1999)
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マルチメディアファイル |
図2.事故状況図
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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