事例名称 |
水素化還元装置においてSUS304材の使用と施工不良による水素ガスの漏洩、爆発・火災 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1992年05月30日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1992年、p-ニトロフェネトール(PNP)を水素還元し、パラフェネチジンを製造する装置で爆発があった。水素還元塔にPNPを供給するためのPNP受槽から音とともに火が吹き、PNP受槽の保温材の一部が破損、脱落し、PNP受槽上部の逃し口および下部の還元塔につながる配管付近が燃焼した。 原因は以下のとおりと推測される。還元塔に水素を導入し、還元反応を開始したが、PNP受槽と水素還元塔の間の配管のエルボ溶接部7ヶ所に漏れがあった。バルブが完全に閉まらず溶媒のトルエン蒸気を含む水素がPNP受槽側に逆流した。逆流した水素が保温材内に漏れ、静電気で着火した。洩れの原因は材料選定のミスと溶接不良によると推定される。 |
事象 |
p-ニトロフェネトール(PNP)を水素還元し、パラフェネチジンを製造する装置で、爆発が起こった。水素還元塔にPNPを供給するためのPNP受槽から音とともに火が吹き上がり、PNP受槽の保温材の一部が破損、脱落し、PNP受槽上部の逃し口および下部の還元塔につながる配管付近が焼損した。PNP受槽からのPNP払い出し配管へ水素とトルエンが逆流し保温カバー下に洩れて滞留していたところに着火、爆発した。 爆発箇所は図3、3ページ目左側D-108PNP受槽から次のR-401A還元塔への配管部分である。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.反応器概要図
|
図3.単位工程フロー
|
反応 |
還元 |
化学反応式 |
図4.化学反応式1
|
物質 |
水素(hydrogen)、図5 |
事故の種類 |
漏洩、爆発・火災 |
経過 |
危険物製造所の完成検査が1990年12月25日に合格し、運転開始から約1年半後の事故であった。 1992年5月30日09:30 還元塔にトルエンと触媒、引き続きPNPを仕込んだ。 14:00 仕込みを終了した。引き続き還元塔の窒素パージをした。 15:20 還元塔の水素パージを開始した。 15:30頃 PNP受槽付近から「シュー」という音がした。原因調査したが不明だった。 還元塔のジャケットに加熱スチームを送り、昇温を開始した。 15:40 水素パージが終了した。 15:48 還元反応を開始した。 16:05 「ドーン」と爆発音が上がり、PNP受槽の下部及び上部から炎が上がった。 16:10 従業員により鎮火した。 16:15 到着した公設消防隊により鎮火が確認された。 |
原因 |
PNP受槽と水素還元塔の間の配管(SUS304 3B)の溶接部40ヶ所全数に割れがあり、そのうち8ヶ所が貫通割れだった。また、PNP受槽と水素還元塔の間のバルブが完全に閉になっていなかった。そのため、還元塔からトルエン蒸気を含む水素が逆流し、それが貫通割れ部分から保温カバー内部に漏れ、PNP受槽保温カバー内部に充満し、静電気火花により着火したと推定された。 |
対処 |
1.危険物製造所の緊急停止 2.従業員による消火活動 3.類似設備の総点検 |
対策 |
1.事故配管と類似部分の配管を耐食性の高いSUS316Lに変更、配管の溶接部を放射線透過試験で確認した。 2.エアー流量計付きバルブは、他系列も併せコントロールルームで状況が確認できるように変更した。 3.バルブの開閉状態が確認しやすいものに変更した。 4.保温材施工の配管については要所に点検窓を設置し、毎日点検する。 5.PNP払い出し配管のスチームトレースの圧力、温度をともに下げる。 6.作業手順書を作成し、保安教育を徹底する。 |
知識化 |
1.ステンレス鋼のすべては塩素に耐性を有しているのではない。化学物質中にある塩素が遊離したり、反応で塩酸などを発生し、塩素あるいは塩酸の腐食性を持つことがあるので、安易にSUS材だからといって選定してはならない。 2.前兆事象があったときに、事象が起こった箇所だけに限定せずに関連箇所を注意深く検討しておけば、防げる事故は多いと思われる。 |
背景 |
1.当該配管は溶接部すべてに溶け込み不良があった。工事施工および施工管理が不十分であったのであろう。 2.材質選定のミスが考えれられる。塩素に対する耐性が高いSUS316Lを使用せず、SUS304を使用した。ただし、原料のパラニトロクロロベンゼンの腐食性が十分に認識されていたかは不明確である。 3.バルブの開閉管理が不徹底であった。 4.別資料によれば、この配管は既に2回漏れを起こし、部分的にSUS316Lに変更している。このときに関係箇所を深く検討し、SUS316Lに交換していれば事故は起こらなかったと推定できる。言い換えれば、怠慢か判断の誤りであろう。 |
データベース登録の 動機 |
配管材質の不適切な選定に起因する事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
無知、知識不足、原料の腐食性に気付かず、組織運営不良、構成員不良、構成員経験不足、水素還元反応、計画・設計、流用設計、材質選択不良、製作、ハード製作、配管工事、使用、保守・修理、点検、定常操作、誤操作、誤った操作(バルブ全閉にしない)、破損、破壊・損傷、亀裂・割れ、二次災害、損壊、爆発
|
|
情報源 |
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1994)、p.231
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100-No.2-(1994)、p.29-30
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1992)
|
物的被害 |
PNP貯槽、設備配管若干焼焦、保温材一部破損 |
被害金額 |
7万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図5.化学式
|
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|