失敗事例

事例名称 立上げ時の誤判断、誤操作によるワニス製造装置からの熱媒油の漏洩
代表図
事例発生日付 1992年11月30日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1992年に神奈川県のバッチ式ワニス製造装置の運転準備中、反応槽の加熱及び冷却に使用する熱媒油が、運転手順を無視して熱媒油補給ポンプの誤操作および温度管理を怠ったため、水分などのパージライン及び真空ポンプ排気ラインを通して排水溝に流れ、公共下水道を通って海上に流出した。
事象 ワニスの製造装置で、熱媒油立上げ時に、操作手順を無視して熱媒油が海上まで漏洩した。
プロセス 製造
単位工程 その他
単位工程フロー 図2.単位工程フロー
物質 アルキルナフタリン(alkylnaphthalene)
事故の種類 漏洩、環境汚染
経過 1992年11月30日08:40 バッチ式ワニス製造装置の運転準備の一部として、反応槽の加熱及び冷却に使用する熱媒油を加熱する準備を始めた。
08:45 循環ポンプの運転を開始し、さらにフラッシュタンク内熱媒油の水分を除去するため真空ポンプの運転を開始した。
08:50 熱媒油加熱ヒーターに点火した。 
08:55 熱媒油の補給ポンプを起動し、熱媒油をフラッシュタンクに補給した。
09:00 熱媒油フラッシュタンクの温度が160℃に上昇したが、ヒーターを停止しなかった。
 本来の操作は130℃でヒーターを停止し、熱媒油の水分除去を行う。
09:10 真空ポンプを停止し大気開放弁を開いた。このとき熱媒油が真空ポンプ排気ラインから漏洩し、排水溝に流れ、公共下水道を通って海上に流出した。
図2参照
原因 1.熱媒油の補給は真空ポンプが停止している時など条件が決められているのに、無視して行われた。バルブの開閉状態が本来の補給時とは異なり、そのため補給した熱媒油の大部分が直接真空ポンプ経由で系外に排出された。
2.熱媒油の温度が100~150℃で加熱を中止し、真空ポンプで水分の除去をするよう決められていたが、無視して160℃以上まで上げてから、水分除去を行った。そのため熱媒油の蒸気が真空ポンプで排気され、冷却凝縮された。
3.真空ポンプの排気ラインの先に油漏出防止機構がなかった。
対処 熱媒油加熱ヒーターの停止
対策 1.作業マニュアルの改善
2.教育の徹底
3.インターロックの設置
4.真空ポンプ排ガス受けの設置
5.排水口センサーの設置
6.真空ポンプからのミストなどの受け入れ専用タンクの改造
知識化 作業長一人だけで全てを指揮し、他の作業員は部分的な作業を行うだけの作業方法では、危険に対し脆弱なことを示している。作業員各員が作業内容を理解できる教育が重要である。
背景 1.作業長が手順を忘れていた。完全なヒューマンエラーである。
2,一般作業員は作業長の指示に従って部分的に作業を行っている。何の作業で、どの様な危険性があるかなどの教育が行われていなかったと推定される。
3.真空ポンプの排気には油蒸気が出ることは当然予想されるが、全く対策が取られていなかった。設計上の配慮不足であろう。
4.以上を総合的に考えれば、会社側の安全管理の不十分さがあると思われる。
データベース登録の
動機
作業手順を確認せずに間違った手順で運転し、海上漏洩した例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、安全対策不足(警報類がない等)、不注意、注意・用心不足、運転状況確認不足、計画・設計、計画不良、漏洩対策設備なし、定常操作、誤操作、誤った操作、二次災害、環境破壊、環境汚染
情報源 高圧ガス保安協会編、高圧ガス保安総覧(1994)、p.234-235
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100-No.2(1994)、p.125-126
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1993)
被害金額 25万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
社会への影響 約20リットル海上に流出
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)