失敗事例

事例名称 ポリスチレン製造装置の反応槽への触媒混入による攪拌機作動油の漏洩
代表図
事例発生日付 1998年12月24日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 1998年12月24日、神奈川県のポリスチレン製造装置において、原料モノマーの仕込比の変更を実施中、第1反応槽内の温度及び圧力が上昇、インターロックシステムが作動した。原料モノマー及び溶剤がリリーフタンクに放出された際、これらの蒸気が若干量大気中に放散し、その臭気を感じた付近住民が119番通報した。溶剤への触媒の混入により、予定以上に重合反応が進み、圧力、温度の上昇があった。反応が進んだ結果、反応液の粘度が急激に上がり、そのため攪拌機の出力が大幅に増加したため、作動用油圧モーターの油圧が急激に上昇し、油圧配管のジョイント部から作動油が漏れた。
事象 重合反応槽で銘柄切替中に、攪拌機作動油が漏洩した。それと同時に、プロセスガスの緊急脱圧用のリリーフタンクから悪臭が発生した。その臭いについて、住民が119番に通報した。図2参照
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
図4.単位工程フロー
反応 重合・縮合
物質 スチレン(styrene)、図5
アクリロニトリル(acrylonitrile)、図6
エチルベンゼン(ethylbenzene)、図7
事故の種類 漏洩、環境汚染
経過 1. ポリスチレン製造装置-2において銘柄切替のため原料モノマーの仕込比の変更を実施中、第1反応槽内の温度及び圧力が上昇した。
2. そのため、インターロックシステムが作動したことにより、反応槽への原料供給が停止するとともに脱圧弁が作動した。
3. 原料モノマー及び溶剤がリリーフタンクに放出された。このとき、これらの蒸気が若干量大気中に放散された。その臭気を感じた付近住民が119番通報した。
4. なお、同時分頃に付近をパトロールしていた社員が,反応槽撹絆機の油圧配管ジョイント部から作動油が漏洩していることを発見した。
原因 1.切替えた溶剤に微量の触媒が混入していた。そのため、予想外に重合反応が進み、温度圧力が上昇した。
2.重合反応の結果、反応槽内液の急激な粘度上昇が起こった。そのため攪拌機の油圧モーターの急激な出力増が要求され、作動油圧が急激に上昇しジョイント部からの漏れを生じた。
3.反応槽温度、圧力の異常上昇によりインターロックシステムが作動した。原料等の供給を停止すると同時に脱圧弁を開にした。脱圧弁から放散されたモノマー等の蒸気の一部がリリーフタンクから大気に放出された。
対策 1.設備転用・改造時の「事前チェクシート」運用方法の改善
2.作動油系統気密・耐圧テスト基準の見直し
3.リリーフシステムの見直し
4.異常反応時の判断基準および緊急冷却基準の見直しおよび訓練
知識化 1.設備の転用は思いがけないところで、その望ましくない影響が出ることがある。十分な検討が必要である。
2.プラント建設当時では問題にならなかった緊急時の大気放出のわずかな臭気が問題視される。時代の要求に合わせた公害防止設備が必要になってきている。
背景 1.溶媒貯蔵タンクは転用品であり、別装置の触媒タンクと仕切り弁で縁切りされただけで配管で連結されていた。仕切り弁の内漏れにより触媒が混入した。したがって、タンク転用時の縁切りの不十分、言い換えれば工事計画の不備が基本要因であると推定される。
2.溶媒に触媒が混入した場合の反応の変動を予測していなかった。もし、触媒の混入に問題があると考えるなら、仕切り弁と逆止弁だけで縁切りすることは考えられない。タンク転用計画に対して、反応への影響の検討が不十分であると推定される。
よもやま話 これもまた、仕切り弁の内漏れが原因になっている。仕切り弁(特に大型の仕切り弁やサビを発生しやすい場所など)では、内漏れを起こしたトラブルの例は多い。容器や配管内の物質を完全に漏らさないようにする仕切り板を挿入するなどの対策を取るように、仕切り弁の内漏れは常に考える必要がある問題である。
データベース登録の
動機
時代の流れで住民の意識が変わった例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、転用機器の影響、組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、計画・設計、計画不良、転用品の清掃、不良現象、化学現象、粘度上昇、破損、破壊・損傷、ジョイント部緩み、二次災害、損壊、漏洩
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1999)
物的被害 反応槽攪拌機作動油約20リットル
被害金額 約4000円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
社会への影響 スチレンモノマー等の蒸気が若干量大気中に放散され,その臭気を感じた付近住民が119番通報
マルチメディアファイル 図2.反応槽概略図
図5.化学式
図6.化学式
図7.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 吉永 淳 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)