事例名称 |
反応缶の加熱水蒸気を完全閉止できないで缶内圧力が上昇したことによる漏洩、爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1956年01月27日 |
事例発生地 |
香川県 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
マレイン酸ジエチル製造で、反応器にベンゼンとエタノールとマレイン酸を仕込み、硫酸(触媒量)を加えて40℃まで昇温した。加熱水蒸気の送入バルブを閉めた。60℃に達したので、撹拌を停止した。その後、温度上昇が続き、83℃になったときにベンゼンとエタノールの蒸気が噴出して、着火・爆発した。水蒸気バルブが閉まりきらずに、水蒸気が供給され、反応温度が上昇し、暴走反応になりさらに温度が上昇したと推測された。ボイラーの火あるいは非防爆の電気設備が火源となり、着火爆発した。 |
事象 |
マレイン酸ジエチル製造装置で、反応缶にベンゼン、マレイン酸とエタノールを所定量張り込んで、加熱を開始した。所定温度になったため、加熱用蒸気を停止したが、バルブが閉まりきらなかった。缶内温度が上昇し、反応が暴走、さらに温度が上昇した。そのため大量の可燃性蒸気が噴出し、近くにあった火源により引火し、爆発、火災となった。図2参照 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー1
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反応 |
その他 |
化学反応式 |
図4.化学反応式
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物質 |
ベンゼン(benzene) 、図5 |
事故の種類 |
漏洩、爆発・火災 |
経過 |
1956年1月27日朝 反応缶内にベンゼン130Lを仕込み、さらにマレイン酸144kgとエチルアルコール160Lと硫酸を若干仕込んだ。 10:00頃 ジャケットに加熱用水蒸気を供給して、加熱を開始した。 40℃に到達したので、平常通りに水蒸気バルブを閉めた。発熱反応のため温度は1℃/1分程度で上昇をする。 60℃になったので、撹拌を停止した。 83℃に到達し、ベンゼンとエタノールの蒸気が噴出した。 通常は60℃で撹拌を停止する。その場合70℃になるとアルコールとベンゼンの蒸発が始まり、コンデンサで冷却凝縮されて還流がかかる。80℃でバランスが保たれる。 |
原因 |
1.ベンゼン蒸気が噴出した原因は、エステル化反応缶内の温度の異常上昇によるものであるが、その原因は水蒸気の送入バルブを閉めた際に、完全に閉めきらなかったことと推定される。そのため、水蒸気が続けてジャケットに入り通常より温度が上昇し、発熱反応が促進されて異常に缶内温度が上がったものと思われる。さらに、コンデンサーの冷却能力が十分でなかったことも、ベンゼン蒸気の噴出の一因であると考えられる。 2.爆発の火源としては、室内のナイフスイッチ(非防爆)の火花、またはボイラの火のいずれかであると推測される。 3.缶内温度の調節装置が不備であること、また正常の反応温度から僅か3℃ぐらいの温度上昇でベンゼン蒸気が噴き出すようでは、コンデンサーの容量が小さすぎる。その他過剰蒸気を処理するための空気抜きが細すぎたこと、その噴出口を作業場内に開放したままであったこと、また、同一作業場内でボイラーを焚いていたことなど、きわめて危険なことが多いと言える。さらに、スイッチや電灯については非防爆型のものを使用していたこと、反応缶内の操作を行ぅ者が安全に関する知識と経験に乏しかったことも、この災害を引き起こすに至った原因であろう。 |
対策 |
1.反応缶の容量に適応したコンデンサの容量を備える。 2.反応缶には、確実にして十分な排気能力をもった安全弁または破裂板を取り付け、その排気を屋外の安全な場所に直接導く。 3.ボイラーと反応缶との間には減圧弁を設ける。(注;事故当時の対策に記されている。蒸気の圧力が高く飽和温度も高いので、圧力を下げればよいとの発想であろう。とはいえ、この事故への対策として意味は少ないだろう) 4.反応缶室内の電気設備はすべて防爆型とする。 5.作業者は、十分な知識および技能をもった者を当てる(教育の徹底)。 6.反応缶に温度調整装置を設けるようにする。 |
知識化 |
1.バッチ反応の初期は不安定であり、その時の対処を間違え事故になったことは多い。単に運転マニュアルを整えるだけではなく、取扱っている反応と設備について十分な知識と判断ができるような教育が重要である。それと同時に、ヒューマンエラーに起因するある程度のミスを許容できる設計にする必要がある。 2.トラブルは一番弱い所から起こる。この場合は電気設備の防爆が不十分なところから爆発が起こっている。バランスの取れた設備にすべきである。 |
背景 |
1.設備が、当該反応に十分対応できるものではなかった。事故発生原因で示したような欠陥は、現在なら明らかなプロセス設計のミスである。 2.電気設備の一部が防爆構造になっていなかった。機械設計不備が問題である。 3.バルブが完全に閉まらなかったことが引き金になっている。作業員のミスか、バルブの内漏れかは明確でない。しかし、使用中のバルブは全閉しても漏れることは少なくない。これらを考慮したら、バルブを二重に設置するとかの配慮が必要であった。 4.1956年の古い事故であり、当時の技術水準でも疑問が残る設備である。現在なら、基本的には安全意識の欠陥であると言える。 |
データベース登録の 動機 |
典型的な暴走反応例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、手順の不遵守、手順無視、操作手順無視、エステル化、計画・設計、計画不良、設計不良、加熱と凝縮のアンバランス、定常操作、誤操作、誤判断からの誤った操作、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
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情報源 |
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.138
労働省労働基準局労災防止対策部安全課監修 中央労働災害防止協会編、重大災害の事例とその研究‐最近10年間の爆発・火災等から‐(1967)、p.95-97
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
4 |
物的被害 |
反応器、建物破損 |
被害金額 |
330万円(損害保険料率算定会) |
マルチメディアファイル |
図2.エステル反応缶図
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図5.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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