事例名称 |
エチレン製造装置において緊急停止後急いで再立ち上げしたことによるアセチレン水添部での火災 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1973年07月07日 |
事例発生地 |
山口県 徳山市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1973年7月7日、I石油化学T工場エチレンプラント内のアセチレン水添部で爆発、火災が起こった。誤作業の影響での緊急停止後の再立ち上げで、水素注入量の制御にミスがあり、過剰の水素が注入され、エチレンも水添されたため、高温になり、さらに、発熱反応が加速されてエチレンの分解反応に至った。。エチレン1200kgの爆発によって非常に大きなファイアボール(直径60m、継続時間5秒)を生じた。 |
事象 |
I石油化学T工場エチレンプラントで緊急停止状態となった。その後すぐに再稼働したが、アセチレン水添塔が高温になり出口配管が破裂し、漏洩ガスにより火災が起こった。鎮火するまで83時間燃えていた。非常に大きなファイアボールを生じた。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
反応 |
付加(水素化) |
化学反応式 |
図3.化学反応式
|
物質 |
エチレン(ethylene)、図4 |
水素(hydrogen)、図5 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1. エチレン製造装置で計器用空気配管のバルブを誤って閉にした。そのため同装置は緊急停止作業に入った。 2. バルブを閉めた運転員はフレアスタックから大きな火が出ていることから誤操作に気付き、同バルブを開に戻した。 3. 停止操作から数分後に再立ち上げ作業に入った。 4. エチレン中の微量アセチレンを水添除去する部門でも再立ち上げに入ったが、計器操作員が温度が高いことに気が付いた。また、水添塔への水素バルブが完全にしまっていないことに気付き、閉めた。 5. 水添塔の温度を低下させるためエチレンを導入した。水添塔内の異常高温と接触しエチレンが分解を始め、その温度上昇により水添塔出口配管が破裂し、漏洩ガスが火災を起こした。 |
原因 |
誤操作による計器用空気線バルブの閉止により、全ての関連計器がフェイリャーポジションになり装置は緊急停止になった。アセチレン水添塔も運転停止になったが、すぐに計器用空気が回復し、再立ち上げを行った。再立ち上げ時の判断ミス及び水素調節弁の不良のため、水素の流入、停止が繰り返された。その結果、エチレンの水添反応が起こり反応器内が高温になったことから、エチレン自身の分解反応に進行し、塔内が高温高圧になった。そのため、出口配管が開孔し、エチレンが噴出し、火災を起こした。 フェイリャーポジション(failure position): 計器用空気が停止した時に、全ての計器は装置の安全を図るため安全に停止できる位置が予め設定されている。その設定位置をいう。 |
対策 |
<調査委員会報告書に記載された今後改善すべき事項の主要点> 1.計装用空気圧検知警報検出端は1次側には設けられていたが、操作ミスによるバルブ閉止があった場合にもすぐ分かるように2次側にも設ける。また、計装用配管の色別などにより管理を徹底する。 2.緊急停止を必要とする装置には注意、警報の2段階に分けて警報装置を設ける。温度計を設け、異常反応の未然防止に対処する。 3.放水銃などの補助設備を設ける。 4.危険度が高い装置が異常となったとき、緊急にその部分と他の部分を遮断するための遠隔操作用の遮断弁を設ける。 5.冷媒ガスが火災となったとき、長時間燃焼しないようにタンクを遮断するとともに、他のタンクへ移送するための設備を設ける。 6.運転関係の各種基準類を全面的に再検討し、特に温度、圧力などの管理限界を明確にするとともに、管理限界に接近した場合のとるべき措置を基準化する。 7.その他、保安管理体制の強化、緊急時の指揮命令系統の明確化及び教育、訓練の実施。 |
知識化 |
1.オレフィン中のジオレフィンの選択水添であり、極微量のジオレフィンを水添するのが、制御のミスでオレフィンまで反応させた。わずかな運転条件の差で、反応を制御している系ではその危険性を十分意識し、設備も二重化するとかして安全確保に留意する必要がある。 2.エチレン装置は殆どがガスが流れるガスプラントである。ガスプラントの特徴として、液プラントに比べ滞留時間が短いので変化が速い。安易に考えて再立ち上げはすべきではない。状況が変わっているのは液プラントでも同じである。 |
背景 |
1.最初の原因である閉止された計器用空気配管バルブは、開閉してはならないバルブである。しかも、そのバルブは本来操作すべき作業用空気配管バルブから100m以上離れたところにある。さらに、その場所の作業用6インチバルブと取り違えて4インチの計器用空気のバルブを操作している。なぜこのようなミスが起こるのか?作業指示や確認といった作業管理に問題はなかったのか。また、開閉禁止のバルブがなぜ無防備であったのか。当然、開閉禁止の措置が取られてなければならない。設備管理に問題があったと考えられる。 2.停止した状態の確認がされていないでスタートした。同水添はエチレンとアセチレンの水添反応条件の僅かな差を利用している。内容物の殆どがエチレンであり、これが完全水添されれば高温になり、分解反応に至ることは運転担当として理解すべき事項である。十分な状況確認を行った後に、慎重に再立ち上げをすべきだった。何故再立ち上げを急いだか、そこのところが最大の要因であろう。 3.再立ち上げ後に水素の停止を調節弁一つで行おうとした。調節弁を完全閉止しても流量が”0”にならないことは運転担当者の常識である。まして何らかの原因で開度”ゼロ”まで閉まらないこともある。緊急事態で思い及ばなかったのであろうが、運転判断の重大なミスである。温度上昇時に他装置からエチレンを導入したのも、運転判断のミスであろう。 4.運転マニュアルが整備されていなかった可能性がある。上記1,2,3については運転の基本である。緊急停止後の運転法として、教育を徹底すべき部分であろう。 |
よもやま話 |
☆ ファイアボールの形成について多くの知見が得られ、火災関連の教科書に取り入れられている。 ☆ エチレン装置は停止するとフレアスタックから大きな炎が出るし、経済的損出も大きい。パニックになって急な再立ち上げをしたのであろうが、代償が大きすぎた。 <調査委員会事故報告書のむすびの項に次の一文がある> ”企業経営の責任者は、生産と安全が一体不可分のものであるとの認識の下に、安全管理部門の位置づけを明確にし、安全対策を強化徹底させるよう努力することを要望する” |
データベース登録の 動機 |
緊急停止後の単純に運転再開することの危険性の例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
誤判断、状況に対する誤判断、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、還元、非定常操作、緊急操作、緊急停止を避けるための緊急操作、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、死亡、組織の損失、経済的損失、直接損害25億円+不稼働損
|
|
情報源 |
高圧ガス保安協会、I石油化学(株)T工場第2エチレン製造装置事故調査報告書 昭和48年7月28日(1973)
徳山市消防本部、I石油化学(株)T工場第2エチレン製造装置火災概要(1973)
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.166-167
労働省安全衛生部安全課編、化学プラントの安全、中央労働災害防止協会(1978)、p.285-293
化学工業協会編、事故災害事例と対策、化学プラントの安全対策技術 4、丸善(1979)、p.251-254
|
死者数 |
1 |
物的被害 |
蒸留塔,受槽,反応器,ポンプ配管類破壊.熱交換器類,レシーバー・ドラム類,リボイラー・ヒーター類,コンデンサー使用不能又は半・部分焼など.エチレン約150t,プロピレン約250t,プロセスガス約100t焼失. |
被害金額 |
25億円(I石油化学(株)T工場第2エチレン製造装置火災概要) |
マルチメディアファイル |
図2.アセチレン水添塔図
|
図4.化学式
|
図5.化学式
|
備考 |
非常に大きなファイアボール(直径50m以上)が起きた有名な事故。 WLP関連教材 ・化学反応の安全/還元反応 |
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|