失敗事例

事例名称 接着剤タンクのドレン弁がいつの間にか開になり接着剤の漏洩火災
代表図
事例発生日付 1994年12月02日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 鉄鋼工場
事例概要 製鉄所の配管内外面に塗装する装置で小火があった。
この装置は当月の稼働を完了し、休止していた。次回の稼働に備えて、機械設備の不具合箇所の修理点検を開始した。内面塗布装置のうち傾斜装置(パイプに傾斜を与え管内の余分な接着剤をパイプ内から排出する工程)の補修をサンダーを使用して行っていた。サンダー作業者がオイルパン内に火が上がっているのを見つけた。オイルパンには接着剤タンク付帯配管のドレン弁から接着材が漏れ溜まっていた。この漏れは、ドレン弁がハンドルが動きやすいコック弁のため、防護シートをかけたときに何らかの原因で開いたためと推定された。
事象 配管内面にコーティング材を塗布する工場で、運転休止期間中の火気工事の火花により接着剤タンクから洩れた可燃物が出火した。図2参照
プロセス 製造
単位工程 設備保全
物質 シンナー(thinner)
接着剤(adhesive)
事故の種類 漏洩、火災
経過 1. 装置は月間の予定生産量を終わり停止していた。
2. 装置の不具合個所の点検を1994年12月1日より始めた。
3. 2日に内面塗布装置の傾斜管の不具合を直すため、駆動チェーンをサンダーで切断中、サンダーの火花が近くのオイルパンに貯まっていた接着剤に着火した。
原因 (1) 漏洩原因  可燃性のシンナーと接着剤が入っているタンクのドレン弁がいつのまにか半開きとなっていた。そこから、混合液がオイルパンに漏れ出たものと推定された。
ドレン弁がハンドルコック式だったため、工事上の防護として掛けた防塵シートがハンドルに触れたか、または作業者がハンドルに触れたため、弁が半開きとなったと推定された。  
(2) 着火原因  接着剤タンクのオイルパン内に漏洩していた接着剤混合液から発生した可燃性蒸気に、サンダーによるチェーン切断作業中に飛んだ火花が着火した。  
(3) 不適切な火気使用工事を実施することとなった原因  
会社として、a)臨時に行う火気使用工事時の安全対策が無かった、b)工事請負業者への工事依頼にあたって安全対策の指示が不十分であった。そのため、可燃性蒸気発生場所付近で火気使用作業を行うに際して、下請け作業者が安全確認及び注意を十分に行わないまま、不適切な火気使用工事を実施することとなった。 
(4) まとめ  配管のドレン弁がハンドルコック式だったことから、防塵シートを掛けた際このシートがハンドルに触れ、または作業者がハンドルに触れて弁が半開きとなり、危険物がドレン弁からオイルパン内に漏洩していた。さらに、サンダーによるチェーン切断作業を安全対策、安全確認が成されていないまま行ったことにより、切断作業中に飛んだ火花がオイルパン内に漏洩していた接着剤混合液から発生した可燃性蒸気に着火した。
対処 従業員が消火器5本で消火した。
対策 (1) 漏洩した配管のドレン弁、及びタンクドレン弁をハンドルコック式からストップバルブ(玉型弁)に変更し先端にプラグまたはキャップを取り付ける。
(2) バルブ付近に鉄製の架台を設置し、作業者や他の物品等が容易にバルブに接触しない構造に変更する。 
(3) 工場内の火気使用基準を明確にする。 
(4) 工事安全実施基準の策定をする。 
(5) 協力業者を含む全従業員に対して、危険物施設における火気管理に関する教育の実施をする。
知識化 1.運転休止期間中の事故である。運転中に比べ、休止期間中は気が抜けることがある。運転休止期間中でも危険物があれば、その注意は運転期間中と同じでなければならないことを示している。
2.コック弁は簡単に開くので取扱いに注意する必要がある。
背景 1.火気使用工事の許可の出し方、安全の確認など管理者側、運転現場側とも緊張感の欠如が最大の原因と推定できる。
2.ドレン弁先端にキャップをしていなかった。内漏れに備えキャップをすべきである。現場管理、運転管理の基礎の一つである。
データベース登録の
動機
ハンドルコック式のバルブは簡単に開になり、火災になった。
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、作業者不注意、組織運営不良、管理不良、作業管理不良、使用、保守・修理、工事開始時に状況確認しない、計画・設計、計画不良、設計不良、二次災害、損壊、火災
情報源 川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1995)
物的被害 シンナー・接着剤混合液約70リットル漏洩し若干焼失.防塵シート,モーターのベルト等焼焦
被害金額 約33000円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
マルチメディアファイル 図2.接着剤タンク漏洩図
備考 修理・点検作業中の事故。このような作業は関連会社が行うために、どうしても安全面の配慮に欠ける。安全教育を行っても正社員でないために不十分になる。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)