失敗事例

事例名称 ラック倉庫へのパレット搬入時、ポリエチレンシートに着火し火災
代表図
事例発生日付 1995年11月08日
事例発生地 埼玉県 吉見町
事例発生場所 製缶工場
事例概要 各種のスチール缶をコンピューター制御で製作、荷造り、ラック倉庫への保管を行っているT社S工場で大型ラック倉庫から出火,約3800m2が全焼した。完成した缶をパレット上に並べ、シュリンクフィルムでまとめ上げるインフラパック機のメンテナンスが十分でなく、フィルムとインフラパック機のヒーターが接触し、着火した。ラック上に格納されてから周囲に火事が拡大し、全焼となった。スプリンクラーは完備してあったが、有効ではなかった。
事象 各種のスチール缶を製作、保管する工場で、出来上がった缶を保管するラック倉庫の7段目(全11段)から出火した。周囲の鉄、アルミニウム缶の表面塗料他に着火し、倉庫全体が火災になった。
プロセス 使用
物質 ポリエチレン(polyethylene)、図3
事故の種類 火災
経過 1. 95年11月8日 大型のラック倉庫を付置した製缶工場でスチール缶のインフラパック機が不調になった。
2. スチール缶の製作とラック倉庫への搬入を続行しながら、インフラパック機の修繕を行った。
3. インフラパック機を修繕している間に、インフラパック機のヒーターとポリエチレンのシュリンクフィルムが接触し着火した。着火した缶パレットは自動搬送されて所定の位置であるラック倉庫の7段目に納まった。
4. 火は倉庫全体に拡大した。鎮火には17時間を要した。
 インフラパック機: 製作した缶をパレット上に積み重ねシュリンクパックして缶をまとめる自動梱包機械
原因 通常の運転ではインフラパック機とポリエチレンフィルムは接触することはなかった。しかし、発災前にインフラパック機の調整が幾度も実施されていること、現場調査、再現実験でのインフラパック機の状態が発災当時の状態と同じとは言い難いことなどから、互いに接近する因子を合わせるとヒータとポリエチレンフィルムは接触する可能性があることが判明した。インフラパック機のヒータ部の最高温度は600℃以上であり、ポリエチレンの最低発火温度は約340℃とヒーターの温度より低く、600℃以上の温度では約3秒以下の接触時間で発火すること、また、缶パレットの製造および、倉庫への移動工程において、熱源として他に考えられないことから、出火は缶パレットとインフラパック機のヒータとの接触による発火であると推定できる。
対策 1.構造、設備面の改善
2.消火設備の改善
知識化 倉庫を階毎に区切らないで、パレット置き場を重ねていくラック倉庫は、パレット使用の荷物の保管に有利で、多く使われて、高さ10mを越え、貯蔵量も巨大な倉庫ができている。床や壁の仕切が無く、全体で1室の構造になっているので、一度火災になると消火は非常に難しい。その運転には付帯機器を含め慎重な配慮が要求される。
背景 1.メンテナンス時の注意力不足が原因で、フィルムとヒーターの接触を考えた安全対策が取られてなかったと推測される。
2.無人化、自動化で他に着火源もないことなどから、安全意識に手落ちがあったと思われる。
よもやま話 ラック倉庫対策は、大きな問題になった。法律的には一階建てだが10mを超える高さのものがある。設備の内、特に、消火設備は、消防法令の改正に繋がった。米国では、少なくても5年以上前に問題になって、多くの研究が行われていた。
データベース登録の
動機
有名なラック倉庫の火災例
シナリオ
主シナリオ 不注意、注意・用心不足、作業者不注意、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、使用、保守・修理、作業環境への配慮不足、不良現象、化学現象、燃焼、二次災害、損壊、火災、身体的被害、死亡、事故死3名、身体的被害、負傷、負傷者6名、組織の損失、経済的損失、立体倉庫、充填室焼失
情報源 埼玉県比企広域消防本部、T製罐(株)埼玉工場製品自動倉庫火災の出火原因調査報告書(1996)
死者数 3
負傷者数 6
物的被害 製品自動倉庫3051.49平方m全焼.荷裁場部分751.04平方m受熱及び煙害(電気配線や電灯は溶融).2階事務室部分352.29平方m煙害.製缶,クレーン,ラック全焼.
被害金額 15億8500万円(建築防災256記載の比企広域消防本部予防課長の報告書)
マルチメディアファイル 図2.8段缶パレットの構成図
図3.化学式
備考 ☆ ラック倉庫の火災が消火しにくいことは米国ではよく知られており、米国では多くの研究がなされている。日本でも、この火災を契機に研究が進み、消火設備関係の消防法令の改正が行われた。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)