事例名称 |
焼入油槽上に高温物体が滞留して焼入油に引火、火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1998年02月20日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
金属製品工場 |
事例概要 |
機械部品の熱処理工場で、従業員2名が製品の熱処理をするため、重油燃焼炉内で880℃に熱せられた1.8トンの処理物を乗せたバスケットをチャージングカー(自動搬送機)で焼入油槽のリフト台にセットした。チャージングカーのフォーク部がリフト台から抜けなくなった。熱せられた処理物がリフト上のバスケットに乗ったまま焼入油槽の上部で動かなくなったため、槽内の焼入油が処理物で熱せられ、引火した。 |
事象 |
機械部品の熱処理工場で、880℃の処理物を加熱炉から焼入油槽へ移動するため、処理物を乗せたチャージングカーのフォーク部分を焼入油槽のリフト台にセットした。リフト台を支持していた4本のチェーンのうち1本が破断し、リフト台が傾いてフォーク部分が抜けなくなった。赤熱した処理物が焼入油槽の焼入油上部で静止して、処理物の熱により焼入油の表面が熱せられ、引火した。 図2参照 |
プロセス |
使用 |
物質 |
焼入れ油 |
事故の種類 |
火災 |
経過 |
1998年2月19日18:40 夜勤作業員が勤務についた。申し送りでは異常はなかった。 20日00:05 加熱炉の処理物1.6トンを焼入処理した。全て異常はなかった。 02:00 他の加熱炉の処理物 1.8トンを焼入るためチャージングカーで焼入油槽に搬送した。 02:05 焼入油槽のリフターに処理物を載せたトレーをセットした。 チャージングカーのフォークがリフト台から離れなくなった。 02:06 チャージングカーの運転を手動に切替え、チャージングカーのフォークを外そうとしたが外れなかった。 02:20 同じ作業を繰返しているうちにトレーの周囲から炎が40cm上がった。消火器で消そうとしたが失敗した。色々と試みたが火は消えず、炎は1mになった。焼入槽の手動式二酸化炭素消火設備は放出口がリフト上のトレーが邪魔になり起動できなかった。 02:53 119番通報をした。 04:04 公設消防が泡放射で消火した。 |
原因 |
1.チャージングガーの故障または作動不良が原因の一つである。 2.高温の処理物を可燃性液体である焼入油の上を移送するのは軽率である。これは、設計上の問題かもしれない。 3.消火設備が稼動できなかった。 |
対策 |
消防からの改善命令は次のとおりである。 1.全てのチェーンの更新と設備全体の定期点検 2.リフト台の水平度調整とフォーク操作のマニュアル化 3.緊急時対応の訓練および教育 |
知識化 |
1.焼入油は、比較的安全ではあるがその過酷な使用方法(高温の金属を油中に浸す)のためにその温度が上昇し、場合によっては発火する可能性がある。従って、焼入油の温度管理は重要である。また、長時間の使用で引火点、発火点が低下するので、この点も要注意である。 2.補修工事の合理化のため、予防保全より事後保全を選択することは多々ある。とは言え、故障が火事や人災に結びつくことが予測されるなら、事後保全は止めるべきである。事後保全を選択している場合は、故障の影響を十分に検討すべきである。 |
背景 |
1.発災の原因となった破断チェーンは18年間も点検補修されていない。そのためか破断強度がメーカーの言う8トンから5トンに下がっていた。チェーンの過酷な使用条件を考えるなら、設備管理の不備が指摘できるだろう。そのもとには、事後保全で良しとする考えがあったと推定する。 2.焼入油は消防の許可を得た危険物第4類第4石油類の焼入油ではなく、より引火点の低い第4類第3石油類を使用していた。引火点が下がっている可能性が大である。法令違反が指摘できるであろう。 3.消火設備が稼働できなかったのは、設計か保守管理に問題があった可能性がある。 |
よもやま話 |
☆ 焼入油は安全度が高いと思いがちだが、火災になる場合も多々ある。焼入油の引火点を考慮した温度管理が必要である。また、古くなった場合には、引火点、発火点は低下する可能性がある。本品は、引火点が194℃と低い。 |
データベース登録の 動機 |
安全と思われる焼入油でも、作業状態によって発災する例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、18年間点検せず、不良現象、化学現象、燃焼、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1998)
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物的被害 |
焼入油槽一式、加熱炉等の開閉用モーター、電気計装設備、天井・内壁面、電気配線、火災報知設備焼損 |
マルチメディアファイル |
図2.焼入工程概要図
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備考 |
使用されていた焼入油は、引火点194℃、発火点325~328℃(第4類第3石油類)と判明した。 使用時の油温は、50℃~60℃で、50℃以上になると冷却ポンプが作動し熱交換器等により油を冷却する構造になっていた。 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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