事例名称 |
石油樹脂中間原料槽で水抜き時、バケツをバルブに掛け絶縁状態で火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年08月09日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
石油樹脂の中間原料を一時的に溜めておく中間原料槽に溜まった水を、従業員がドレン弁らペール缶に抜出す作業(*)を行っていたところ、突然ペール缶内から炎が上がった。この火災により、作業員が水抜きノズルのバルブを閉められなかったため、水抜きノズルから出ていた中間原料がペール缶からあふれ床面に流れて延焼拡大した。 (*:本作業は毎日行われる定常的なもの) |
事象 |
石油樹脂製造工場で貯槽のドレン切り作業を、ペール缶をドレン弁のハンドルに下げ行っている時に出火した。図2参照 ドレン弁: 貯槽あるいは配管などの底部に下向きに設ける小口径弁のこと。遊離した水分などを抜き出すなどの作業のため設ける。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
その他 |
物質 |
熱重合樹脂 |
灯油(kerocene) |
事故の種類 |
火災 |
経過 |
2000年8月9日13:45頃 中間原料槽底部からの水抜きをペール缶(20L)に向け開始した。 13:49頃 ペール缶に3杯目の水抜きを開始し、水から油に変わったことを確認し、弁閉止を試みるが失敗した。 13:50頃 ペール缶内から、炎が発生した。 13:52 装置の緊急停止操作を開始した。 13:55 119番通報をした。 13:58 自衛消防隊が現地に到着した。 14:02 公設消防隊が到着した。 14:15頃 水抜き弁の閉止に成功した。 14:52 鎮火を確認した。 |
原因 |
当時の作業状況から判断すると、静電気による引火が最も可能性が大きい。 静電気発生原因の推定 1.貯槽のドレン弁および流出液の帯電 a.貯槽のドレン弁は配管及びドラムを通じて接地されており、帯電はしない可能性が大きい。 b.上記ドレン弁は1回転開放(5回転で全開)し、流出液の速度は約4.7m/秒であり、静電気が流出液に発生する可能性がある。 c.流出液は非導電性のエマルジョンないし灯油分であり、帯電しやすい。 2.ペール缶の帯電 a.水抜き作業による受缶内液は約5L(エマルジョン層70%, オイル層30%)であり、非導電性物質は約3Lあった。 b.受缶はドレン弁に掛けてあったが、握りがポリエチレン樹脂製であり、電気的に絶縁されている。 c.帯電した液を受け入れたため、受缶に電荷が蓄積され、電位が上昇した。 d.受缶部の対地静電容量の測定結果(40pF)、また、内容液の最小着火エネルギー(0.2mj)から、必要な電圧は3200Vとなり、発生しうる電圧レベルである。 |
対策 |
1.静電気発生防止対策 作業要領見直し a.水抜き作業でも帯電性、かつ引火性の液体が混入する可能性のある作業では、受缶にペール缶等絶縁材を用いた容器の使用を禁止する。 b.受缶は導電性金属材料のものを使用し、かつ、アースボンデイングを実施する。 c.工場安全作業基準の改訂を行う。 2.類似作業の洗い出し及び水平展開 a.対象;定例、非定例の全ての開放サンプリング、水切り、パージ作業(約150件) ・当該作業が静電気蓄積性、かつ、低引火点の油種かどうかを分類する。 ・当該作業時の使用容器の種別、アースボンデイングの有無を確認する。 b.関連部門への再教育の実施 |
知識化 |
静電気の事故は多い。接地等の静電気対策は防災対策の基本である。 |
背景 |
ペール缶に取り付けた取っ手をポリエチレン等の絶縁物で覆っており、それをドレン弁のハンドルにかけてドレン切りを行っている。わざわざペール缶を絶縁状態にしている。このような状態にしないことが、静電気対策の第一歩である。危険物を取扱う工場では、静電気対策が安全確保の基本の一つであり、教育項目の重大事項である。教育の欠如か、安全マニュアルの不備または無視と考えられる。 |
データベース登録の 動機 |
典型的な静電気による事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、安全教育・訓練不足、不注意、理解不足、リスク認識不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、定常操作、誤操作、不良現象、電気故障、絶縁、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、直接損害額5千万円
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(2000)
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物的被害 |
計装機器、電気設備、照明・ケーブル、原料槽保温板金部、配管・配管保温材等焼損。中間原料約190リットル焼失 |
被害金額 |
約5000万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図2.事故箇所模式図
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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