事例名称 |
灯油水素化脱硫装置の硫化水素吸収塔の液面計のガラスの破損による火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1973年10月26日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
脱硫装置の硫化水素吸収塔で、液面計から水素ガスが噴出し、火災になった。液面計のガラスと本体フランジをシールするパッキンの挿入不良からボルトが緩み漏洩した。その影響でガラスが破壊された。点検個所の洗い出し、設備の改善と点検周期の短縮などを行った。 |
事象 |
灯油脱硫装置の循環水素からアディップ水溶液(ジイソプロピルアミンの水溶液)により硫化水素を除去する硫化水素吸収塔で、塔底のクリンガー式液面計から水素ガスが噴出し、火災となった。運転温度40℃、運転圧力5MPaG。図2参照。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
分離 |
物質 |
水素(hydrogen)、図3 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1973年10月25日 定期修理計画にもとづき装置は停止作業に入った。 発災した硫化水素吸収塔だけは運転を継続した。 26日12:55頃 近くにいた工事関係者が「バシッ」という音で火災を発見した。 計器室に走り、通報した。 12:55過ぎ 現場を確認した主任が緊急停止を指示した。 13:01頃 計器室で緊急停止操作を開始した。 13:10 発災塔を他の機器から切り離すことができたので、緊急放出弁を開放して、塔圧を5MPaGから0.5MPaGに落とした。圧力を低下させてから、冷却散水と塔内に水を注入し、漏洩箇所以上に液面をあげた。 13:25 鎮火した。 |
原因 |
クリンガー液面計のガラスを本体にシールしているパッキンを正規に挿入しないで無理な締め付けをしたため劣化した。このため、2年間の運転の間にスプリングワッシャーの入っていないボルトとその周辺のボルトに緩みを生じた。スプリングワッシャーのないボルト付近から漏洩が始まり、パッキンが内圧に耐えきれず漏洩ボルトの隣のボルトの位置で切断し、プロセスガスが噴出したと推定された。着火源は噴出時に発生した静電気とされている。 |
対処 |
緊急停止作業、散水冷却、塔内注水で液面を上げてガス漏洩を止めた。 |
対策 |
1.温度、圧力条件が厳しい運転条件下での液面計は差圧式液面計に変更し、変更しないすべての液面計に自動停止弁を設置した。点検周期を4ヶ月に定めた。保守管理基準を見直し、見落とし箇所を洗い出した。 2.元バルブのタイプを変更する。 |
知識化 |
1.経験に依存すると、設備や機器の安全性や信頼性、寿命を誤判断することがある。 2.最初に納入された部品より機能が強化された物があるならば、交換することを念頭に置くべきだ。この場合は元弁のタイプがそれに当たる。 |
背景 |
1.建前上10年の寿命がある液面計のメーカー責任部分で発生した事故なので、基本的にはメーカー責任が大きい。それと、受入れ時の検収で不具合を見つけられなかったことも問題である。 2.運転開始後の点検で前兆現象を見落としていないか。液面計の点検維持を従来の経験から殆ど問題を起こさない付帯品との観点からマンネリになっていた可能性が推測できる。 3.拡大した原因は液面計の上下の元バルブ2ヶにある。この時期なら、大量の漏れがあった場合に自動的に流れを遮断する機能の付いたバルブを使うべきだ。購入時の選定ミスとその後のフォローが不足していると推定される。 |
よもやま話 |
☆ LG(液面計)のガラスの破損は珍しくない。特に高温のものはガラスと金属の熱膨張の差があり、破損しやすい。 |
データベース登録の 動機 |
プラントの保守点検の重要性を認識させる事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、経験頼みの保全、不注意、注意・用心不足、点検監視不良、計画・設計、計画不良、部品の選択ミス、破損、破壊・損傷、ガラスの割れ、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
川崎市コンビナート安全対策委員会、T石油(株)K工場水添脱硫装置火災原因調査報告書(1974)
高圧ガス保安協会、川崎・横浜コンビナート保安調査報告書(1983)、p.84-85
化学工業協会、事故災害事例と対策 化学プラントの安全対策技術 4、丸善(1979)、p.197-198
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物的被害 |
プロセスガス(水素95%・メタン5%)約20立方m焼失。液面計1基、計装類若干焼損、塔2基一部焼焦 |
被害金額 |
11万円(T石油(株)K工場水添脱硫装置火災原因調査報告書) |
マルチメディアファイル |
図2.現場写真
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図3.化学式
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備考 |
定常作業 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
若倉 正英 (神奈川県 産業技術総合研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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