事例名称 |
常圧蒸留塔のオーバーフラッシュ配管の腐食による開孔で硫化水素の火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年02月16日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
常圧蒸留塔のオーバーフラッシュ配管付近で火災が発生した。配管部分の硫化水素腐食によるものであった。配管材料の点検や交換の周期を標準化することや、それらに対するマニュアルを定めることが必要である。適正な材料の選定も必須である。 |
事象 |
常圧蒸留塔のオーバーフラッシュ配管付近で火災が発生した。図2参照 石油精製で言う常圧蒸留塔(トッパーという)は、原油から塩分や水分を除去した次に処理する大型で、ガソリンから重油までの各種留分に分離する基本装置である常圧蒸留装置(ADU)の主要機器である。なお、装置は1960年に運転開始し、当該配管は1979年に設けられた。 オーバーフラッシュ配管: 常圧蒸留塔のフィード段から少し上の段の液の一部を抜き出し、溶存ガスを分離した後に常圧蒸留塔のフィード段下で同塔に戻す配管で、重質軽油分の回収を目的としている。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
蒸留・蒸発 |
物質 |
原油(crude oil) |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
定常運転中の常圧蒸留塔付近から火炎が出ているのを巡回中の従業員が発見して、通報した。運転記録には温度、圧力の異常はなかった。同配管の点検記録では大きな腐食傾向は見いだしにくいが、水平部中央付近にあるオリフィス下部では発災前3年での腐食傾向は大きい。 |
原因 |
原油中の硫化水素のうち常圧蒸留塔より上流の装置で除去しきれなかった硫黄の一部が、加熱炉内で硫化水素化した。U字管部の流速が遅く硫化水素が部分的に液から分離し、U字管部の上方に滞留した。その遊離硫化水素が350℃という高温により配管部分を腐食させたものとみられる。さらに開口部から漏洩した硫化水素が発火したと推定される。 |
対処 |
1.注水消火 2.オーバーフラッシュ配管を次の定修まで使用しない。 |
対策 |
配管材料の見直しと配管の交換周期を早める。 |
知識化 |
プラントの配管では使用条件、流通物質により寿命は大きく異なる。材料や構造の選定は重要である。 |
背景 |
硫化水素存在下で腐食が意外に速く進行した。硫化水素と空気がU字管水平配部に設置されたオリフィスプレートのため、分離・蓄積し配管内に気相部ができ、350℃の高温が腐食を早めた原因となっている。ADUは石油精製の最も基本的な装置で、世界中にどこにでもある。腐食が進行したとされる原因のうち、この装置に特別なものは何だろうか。 |
よもやま話 |
☆ 事故後に考えると、腐食の可能性が大きいところを、なぜ事故前に検討できなかったか? 新設時や改造時の事前検討の重要さがわかる。 |
データベース登録の 動機 |
プラントでの保守点検の重要性を認識させる事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、事前検討不足、微量不純物のドライ腐食、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、材料選択、使用、運転・使用、装置の運転(高温、ドライ)、破損、減肉、高温腐食、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(2000)
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物的被害 |
保温用板金一部焼損。塔底油約100リットル焼損 |
被害金額 |
20万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図2.説明図
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備考 |
定常作業 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
若倉 正英 (神奈川県 産業技術総合研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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