事例名称 |
燃焼ガス低温液化分離装置の運転中の爆発 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1959年07月11日 |
事例発生地 |
山口県 宇部市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
石油を水蒸気と酸素を反応させてガス化し、生成ガスから低温で一酸化炭素とメタンを液化して分離する装置で爆発火災が2回発生し、11名死亡、44名が負傷した。1回目の爆発火災の対処として反応系の可燃性ガスを窒素パージし、消火活動を行った。2時間後にさらに激しい爆発が起こった。最初の爆発の原因はガス化炉の反応で副生する窒素酸化物の一部が低温分離で液化した炭化水素に溶け込み、またはジエン化合物と反応して、不安定で爆発威力の大きい脂肪族ニトロ、ニトロソ化合物が生成し、これが蓄積して爆発したものと推定される。2回目の爆発は保冷材が可燃物だったので起こったと推定された。低温分離の-192℃の低温で保冷材に入り込んだ空気の一部が液化し、酸素リッチとなった。可燃物を使用した保冷材が濃縮された酸素により爆発したとされた。 |
事象 |
石油を水蒸気存在化で部分燃焼して生成したガス中の一酸化炭素とメタンを液化して分離する装置で爆発が起こり火災となった。そのため、反応系内の水素を主成分とする可燃性ガスをパージするために窒素ガスを導入したが、2時間後にさらに激しい爆発が起こった。死傷者は全て二次爆発発生時である。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
分離 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
|
物質 |
アンモニア合成原料ガス(gas mixture for the synthesis of ammonia(hydrogen,nitrogen,methane,argon etc.)) |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1959年7月11日09:43 合成工場など第一分離器が爆発し、火災となった。 ただちに反応系の可燃性ガスのパージなど応急措置を行い、消火作業を行っていた。 11:45 2回目の爆発が起こった。 |
原因 |
1.ガス化炉の反応でブタジエン等のジエン類が生成する。二酸化炭素の水洗浄塔の使用水に含まれるN2O3やN2O4などの窒素酸化物の一部が低温分離で液化した炭化水素に溶け込み、ジエン化合物と反応して、不安定で爆発威力の大きい脂肪族ニトロ、ニトロソ化合物が生成し、これが蓄積して爆発したものと推定される。 2.二次爆発の原因は低温分離装置の保冷材が可燃物(羊毛くず)で、低温分離装置が-192℃と低温のため、保冷材に入り込んだ空気の一部が液化し酸素リッチの状態になり、酸素と保冷材が爆発したと推定された。 |
対処 |
気相の可燃性気体のパージと消火作業を行った。 |
対策 |
1.極低温装置の保冷材はパーライト等の不燃材を使用する。 2.プロセスで使用するものは、たとえ洗浄水でも化学薬品である。そのようなものの不純物まで注意する必要があろう。実際には困難と思われるので、同種の事故例をフォローする体制を業界か安全関係者が作る必要があるであろう。 |
知識化 |
1.窒素酸化物は低温液化した炭化水素に溶け込むと反応して不安定で爆発威力の大きい脂肪族ニトロ、ニトロソ化合物を生成することがある。 2.-192℃といった低温では、思いもかけずに空気分離が起こり酸素が濃縮されていた。極端な条件下では予想外の状況が起こりうることを意識する必要がある。 |
背景 |
1.プロセスの危険性解析が不十分であった。 2.極低温装置の保冷材中で、空気中の酸素が濃縮されることを見落として、可燃物を保冷材に使った。 ただし 上記2件とも当時の技術レベルとしては予測不可能だったかも知れない。 |
よもやま話 |
☆ この事故をきっかけに極低温用の保冷材が不燃性であることの必要性が認識された。 |
データベース登録の 動機 |
反応副生成物が原因となって予期しない爆発性物質が生成し突如爆発し、さらに予期しない二次爆発が発生した例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、危険性解析不足、無知、知識不足、思い込み、使用、運転・使用、不純物蓄積、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、11名死亡、身体的被害、負傷、40名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額2.4億円
|
|
情報源 |
日本損害保険協会、防火指針11 石油化学工業防火・防爆指針(1970)、p.128-130
産業災害事例研究会、爆発(産業災害事例集1)(1971)、p.130-131
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.87-102
日本損害保険協会、防火指針15 プラント運転の防火・防爆指針(1971)、p.101
化学工業協会、事故災害事例と対策 化学プラントの安全対策技術 4、丸善(1979)、p.316-317
|
死者数 |
11 |
負傷者数 |
44 |
物的被害 |
工場内設備破壊 |
被害金額 |
2億4000万円(プラントの運転の防火・防災指針) |
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|