事例名称 |
5‐t‐ブチルメタキシレンのニトロ化反応中の攪拌機の再起動による爆発 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1970年04月14日 |
事例発生地 |
大阪府 大阪市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1970年4月14日 2.4.6‐トリニトロ‐5-t‐ブチルメタキシレンの製造装置の反応槽で爆発が起こった。混酸への原料滴下中に、攪拌機が停止していることに作業員が気づいた。直ちに原料の滴下を中止して攪拌を再開した。その後、攪拌の再開が反応を急激に進める可能性のあることに気づき、直ちに攪拌を停止した。しかし、すぐに煙の噴出が始まり、反応槽が爆発して火災となり、プラント、建屋が大破した。なお、反応は硫硝混酸中に撹拌しながら5-t-ブチルメタキシレンを滴下して行われる。 |
事象 |
2,4,6-トリニトロ-5-ブチルメタキシレンを合成する反応槽で爆発が起こった。反応は最初に、反応槽に混酸(98%硫酸720kg、98%硝酸750kg)を仕込む。次いで、攪拌機を回しながら5-t‐ブチルメタキシレン360kgを14~15時間かけて滴下しニトロ化反応を行い、目的物を製造する。反応は30分ごとに温度測定を行い、槽内温度を35~40℃に維持する。温度制御はジャケットによる冷却操作および5-t-ブチルメタキシレンの滴下速度の調節により行われる。発災当日、混酸への原料滴下開始から5時間20分後に作業員は攪拌機が停止していることに気づき、原料の滴下を中止して攪拌を再開した。その後、攪拌の再開が反応を急激に進める可能性のあることに気づき、直ちに攪拌を停止した。しかし、すぐに煙の噴出が始まり、反応槽が爆発炎上して建物が大破した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
|
反応 |
ニトロ化 |
化学反応式 |
図2.化学反応式
|
物質 |
5-t-ブチル-m-キシレン(5-t-butyl-m-xylene)、図4 |
硫酸(sulfuric acid)、図5 |
硝酸(nitric acid)、図6 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
1970年4月14日13:00 反応槽に混酸の仕込みを開始した。 13:30 反応槽に5-t‐ブチルメタキシレンの滴下を開始した。 18:30 反応槽温度が37℃であることを確認した。 18:50 温度チェックの際に、槽内温度が34℃に低下しているのをみて、攪拌が停止していることに気づいた。このため、あわてて原料の滴下を中止するとともに攪拌機の作動スイッチを入れた。 その後攪拌の再開が反応を急激に進めることに気づき、攪拌機の作動スイッチを切った。 その約20秒後、反応槽の排気口から黄褐色の煙が噴出し始めた。このため、槽底のブローダウン用バルブを開けようとしたが煙が立ちこめて近づくことができなかった。作業者(2名)は、退避して様子をうかがった。 その数分後、排気口から大量の白煙が噴出し、反応槽が爆発炎上し、ふたが15mほど飛び、反応槽本体は階下に落下した。 |
原因 |
攪拌を停止したまま混酸中に原料を滴下していたため、反応槽内で原料と混酸が2層に分離していた。その状態で攪拌を再開したため、これらが一挙に混じり合って発熱反応が急激に進行して反応槽が爆発した。 |
対策 |
1.緊急事態に対処できるよう、遠隔操作方式または自動操作方式の冷却システムを採用する。 2.緊急排出バルブを遠隔操作方式にする。 3.攪拌停止の警報装置を設置する。 4.上記3.と連動する滴下停止装置を設置する。 5.作業標準を作成し、次の項目を重点に作業者にその内容を徹底させる。 (1) 反応の時間経過に伴う温度変化 (2) 原料仕込み時の攪拌状態の確認 (3) 原料仕込み時の温度の確認 (4) 緊急冷却システムの操作 その他、考えられる異常時すべてを想定し、それらへの対応の手順を確立し、これを作業員に徹底するための教育・訓練を行う。 |
知識化 |
1.人は知識では分かっていても異常事態ではパニック状態となるか、あわてるため正常な判断ができなくなり誤った行動をすることが多い。 2.そのため、装置が緊急事態に陥った時、出来るだけ人力に頼らず自動的に措置出来るよう設備対応を考えることも重要である。 |
背景 |
1.作業者のパニック行動と思われる。運転再開に気を取られて、誤った手順の作業をした。 2.攪拌機停止を自動的に通報するシステムがない。 3.経過欄にあるように、急激な撹拌再開は危険であると分かっている。それに対応する設備面の対策が不十分だったと思われる。 |
よもやま話 |
☆ 現在なら、攪拌停止時に滴下を自動的に止める、攪拌機の再起動に起動インターロックをかける、などが通常に行われるが、そういった設備がない。言換えるとプロセス設計でヒューマンエラーに対する観点が欠けていると言えるが、当時では困難だったのかも知れない。 |
データベース登録の 動機 |
作業員の緊急時対応エラーによる事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、ニトロ化反応、非定常操作、緊急操作、反射的操作、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、組織の損失、経済的損失、工場建物全焼他
|
|
情報源 |
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.81,82
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.66-67
|
死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
鉄骨スレートぶき2階建工場のべ約200平方m全焼.付近の建物の窓など破損 |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
|
図5.化学式
|
図6.化学式
|
備考 |
WLP関連教材 ・化学反応の安全/ニトロ化反応、ニトロソ化反応 |
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|