失敗事例

事例名称 火薬類の保管の不適切による一時置場の爆発
代表図
事例発生日付 2000年08月01日
事例発生地 愛知県 武豊町
事例発生場所 火薬工場
事例概要 2000年8月1日 火薬工場の火薬類一時置場で長期間存置されていた無煙火薬の一部が太陽光の差し込む西側に置かれ、温湿度管理が不適切であったこと等により劣化し、自然発火した。この火が一時置場内の他の火薬類に燃え移り、高温に晒された無煙火薬が爆発した。当該一時置場は跡形なく、吹き飛び、また、床には大小13個の漏斗孔が形成されていた。工場内の建物は全壊29棟など合計320棟が被災した。工場外の被害は79名が負傷し、周辺の家屋等は888棟が被災した。さらに飛散物が周辺の田畑に飛散し、周辺住民に大きな被害を与えた。
事象 火薬工場の火薬類一時置場で保管してあった無煙火薬が自然発火して、当該一時置場に保管してあった他の火薬類に伝爆して大爆発となった。当該一時置場は跡形なく、吹き飛び、工場内の多くの建物が大破し、工場外の多くの民家も破損し、飛散物が周辺の田畑に飛散し、周辺住民に大きな被害を与えた。なお、負傷者は全て第3者であった。 図2参照
プロセス 貯蔵(固体)
物質 無煙火薬(smokeless powder)
事故の種類 爆発
経過 2000年8月1日 当該一時置場には無煙火薬約7.1トン、過塩素酸塩を主とする火薬約0.6トンが存置されていた。
またこの日は工場休業日のためほとんどの従業員は出社していない。
前日の7月31日15時に、当該一時置場で無煙火薬36kgを搬出するとともに、他の無煙火薬31kgを搬入する作業を行なったが、作業員の報告では無煙火薬の異状や異臭等の異常現象は特に認められなかった。
8月1日22:09:10 当該一時置場の警報装置が作動した。当該置場の扉又は窓が開放したものと推定される。
22:09:23 警報装置が解除されており、伝送ケーブルが切断されるような事象が起こったと推定される。
22:09:29 当該一時置場の近隣の工室の警報装置が作動し、これらの工室の窓や扉に影響する事象が発生したものと推定される。
22:09:30以降に当該一時置場の近隣工室以外の工室の警報装置が作動した。この時点で大きな爆発が起こったものと推定される。
当該一時置場は鉄骨が変形して残っているのみで、屋根及び壁材は全て飛散し、全壊した。また、床には大小13個の漏斗孔が形成されていた。79名が負傷したが、全て第3者であった。周辺の家屋等は888棟が被災した。内訳は全壊12件、半壊26件、一部破損440棟、ガラス破損364棟、その他46件だった。
原因 無煙火薬を数年間にわたり一時置場に放置して劣化し、自然発火したものと考えられる。具体的には、当該一時置場に長期間存置されていた火薬類の一部が太陽光の差し込む西側に置かれ、温湿度管理が不適切であったこと等により劣化し、自然発火した。この火が一時置場内の他の火薬類に燃え移り、高温化に晒され無煙火薬が爆発した。
対処 1.周辺民家への損害賠償
2.火薬類が飛散している可能性のある周辺田畑の作物の収穫作業を従業員が行い、収穫物を全て買い取った。
3.周辺住民対応窓口の開設
対策 1.現場職員だけでなく幹部職員も含めて保安意識の向上を図るとともに、法令の趣旨及び技術基準ならびに火薬類の特性等火薬類の製造に必要な基礎知識を身につけるための保安教育の充実を図る。
2.製造保安責任者の指示が現場で確実に実施されるような体制の確立や監視システムの充実等を行い、ダブルチェックによる保安管理体制の強化を図る。
3.火薬類の安定性を確認する安定度試験を適切に行う。
4.太陽光の影響を防止するための適切な遮光措置を講じる。また、温湿度記録計を設置し、温湿度の影響を少なくする措置を講じる。
5.火薬類一時置場は製造中の中間品を一時的に置くためのものであり、短期間火薬類を保管する場所であることを周知徹底し、存置期限を定める。
6.一時置場に自動消火設備を設置する。
7.無煙火薬の保管容器を小さくし、1つの容器に収容する量を少量化する。
知識化 1.無煙火薬は用途により、配合物が異なるため、安定性や経時変化にも差が生じる。
2.無煙火薬は高温環境に晒されるなど条件によって激しい爆発を起こすことがある。
背景 無煙火薬は燃焼するが、激しい爆発は起こさないという考えに基づき、事業所管理者は無煙火薬の保管管理状況を十分に点検していなかった。
後日談 事故の恐怖により周辺住民の中に精神的不調を訴える人がみられ、社会問題となった。
データベース登録の
動機
長い間扱っている間に危険性の認識が風化し、事業所幹部が現場の管理状況を十分点検していなかった事例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、思い込み、計画・設計、計画不良、保管計画不良、使用、輸送・貯蔵、保管、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、79名負傷、組織の損失、経済的損失、47億円、社会の被害、社会機能不全、周辺民家約500棟に被害
情報源 N油脂(株)T工場事故調査委員会、N油脂(株)T工場第12火薬類一時置場で発生した事故に関する調査報告書(2000)
負傷者数 79
物的被害 工場内施設全壊29棟,半壊39棟,一部破損192棟,ガラス破損60棟.工場周辺の家屋・建物全壊12棟,半壊26棟,一部破損440棟,ガラス破損364棟.
被害金額 特別損失37億2,100万円(賠償金約30億円,施設復旧費約7億円),操業停止による売上減10億円(2000年9月中間決算).
マルチメディアファイル 図2.現場状況写真
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)