事例名称 |
プロピレンオキシド製造装置の中間タンクにおいて混触危険物質の共存によるタンクの爆発 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1964年06月11日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1964年6月11日 プロピレンオキシド(以下PO)装置で補修のため蒸留塔の液を粗PO中間タンクに移送したら爆発した。移送液中のアルカリがPOと発熱反応した。物質の危険性および性質に対する考慮の欠如が問題と考えられる。 |
事象 |
プロピレンオキシド製造装置において、修理のため精留塔残液の移送が粗PO中間タンクに向け行われていた。移送を完了して間もなく、同タンク付近から白煙があがった。しばらくして、大爆発が起こり、ついで火災となった。PO製造装置は2系列あった。図2参照 プロピレンオキシド: 沸点34℃の液体で、その蒸気圧は170℃において25atm、180℃において30atmであるから、タンクの破壊圧力達するには、170~180℃になる必要がある。POはアルカリの存在下において、発熱を伴うアニオン重合を起こす。重合熱は約18kcal/molで、液の一部の重合により、180℃までの発熱が実現される。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
その他 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
|
物質 |
プロピレンオキシド(propylene oxide)、図4 |
事故の種類 |
漏洩、爆発・火災 |
経過 |
1964年6月11日14:10 第1装置の第1精留塔の修理のためその塔底液を第2装置の粗PO中間タンクA、B(SS41製、約14m3)に移送する作業が始められた。 14:50 約1時間後に移送終了した。 15:50頃 第2装置第2反応塔頂部のアラームがなり、塔頂圧は30kPaG以上に上昇していた。第2装置第1精留塔への流量増加が記録され、さらに塔底温度が上下し始めた。 15:06頃 中間タンクA回りに白煙が立ちこめた。 15:07 中間タンクAに激しい爆発が起こった。 |
原因 |
塔底液は、アルカリを含んだ水、イソプロピルアルコールなどからなり、液温は第1精留塔のスチーム漏れのため85℃前後であった。本来、中間タンクは通常20℃以下に保つことが原則であった。これらが、タンク内のPOと接触して、アルカリ触媒によるプロピレンオキシドの重合反応が開始し、発熱が起こり、反応が暴走した。その結果、圧力が上昇してタンクは破裂し、タンク内圧力が急激に低下したため、タンク内の残存液が瞬間的に蒸発(蒸気爆発と言う)し、空中に噴出したPO蒸気などが蒸気雲爆発を起こした。 蒸気雲爆発;大気中に放散された可燃性ガスが上空で雲状になり、そこで爆発を起こす現象を言う。大きな被害をもたらす。 |
対策 |
粗PO中間タンクとブローダウンタンクの分離を行う。 |
知識化 |
ブローダウンタンクには色々な組成、性状の物が移送される可能性がある。半製品の中間タンクとブローダウンタンクを兼用するような場合、どのような緊急時においても、混合危険がないよう化学的、化学工学的な全ての可能性を検討しておく必要がある。 |
背景 |
1.POの中間タンクに、緊急時のアルカリ性溶液のブローダウンタンクとしての役割を持たせ、結果的に二つの用途をもたせたことが最大の要因だろう。POとアルカリの混触危険が起こりうることを、設計時に想定できなかったと思われる。 2.運転では、想定されたタンク温度が守られていない。このことが、暴走反応にどの程度影響したか明確ではないが、反応速度を速めたことは間違いないであろう。 3.設計時の安全対策が不十分で、そのまま運転してきたことも問題視される。運転側がPOとアルカリの混触危険をチェックできれば、対応が取れた可能性はある。何も起こらないときに、プロセス設計までさかのぼって見直すことは難しいことではあるが。 まとめると、設計時に物質の特性調査を怠ったことと、運転管理のミスと考えられる。 |
よもやま話 |
☆ POがアルカリ存在下で重合反応を起こし危険であることは、現在ではPO関係者には常識であろう。発災当時はどうであったか。逆に、もし、その危険性が分かっていないあるのでならば、もっと慎重に調査をする必要がある。何が危険かを選択をするセンス、経験などが求められるのであろう。 |
データベース登録の 動機 |
物質の危険性に対する基礎知識の欠如がもたらした事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、無知、知識不足、経験・勉学不足、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、誤操作、温度異常高、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、8名死亡、身体的被害、負傷、117名負傷、組織の損失、経済的損失、タンク全壊他
|
|
情報源 |
日本損害保険協会、防火指針11 石油化学工業防火・防爆指針(1970)、p.100-110
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.235‐249,298
高圧ガス保安協会、川崎・横浜コンビナート保安調査報告書(1983)、p.68-69
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、p.205-208
日本損害保険協会、防火指針12 タンク類の防火・防爆指針(1970)、p.112-113
日本損害保険協会、防火指針15 プラント運転の防火・防爆指針(1971)、p.64-65
|
死者数 |
18 |
負傷者数 |
117 |
物的被害 |
タンク全壊.周辺の建物全焼 |
マルチメディアファイル |
図2.現場写真
|
図4.化学式
|
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|