事例名称 |
無水フタル酸製造プラントにおける蒸留缶の熱媒のナイターの漏れによる爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1966年10月19日 |
事例発生地 |
福岡県 大牟田市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
無水フタル酸製造装置の蒸留缶でナイターを熱媒体として真空蒸留をしていたら、爆発した。ナイターが漏れ、釜内溶液と反応した。ナイターの危険性は十分に知られている。また、通常の化学知識からも、危険性は十分に予測できてしかるべきである。 |
事象 |
無水フタル酸を真空蒸留缶で精製中、No1蒸留缶が突然爆発し、同缶は粉砕されて100m四方に飛散し、精製プラントは大破炎上した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
蒸留・蒸発 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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物質 |
無水フタル酸(phthalic anhydride)、図3 |
事故の種類 |
爆発 |
経過 |
1966年10月19日 03:10 無水フタル酸の蒸留缶が突然爆発した。 この蒸留工程は前処理で不純物を除いた無水フタル酸を仕込み、約40時間30mmHgの減圧で蒸留するが、約5時間後に終了する予定であった。 蒸留缶は4基操業中であったが、いずれも二重構造で、外側に伝熱媒体としてナイターを入れ、約300℃に加熱する。フタル酸の温度は、180℃程度であり、ナイターの加熱方法は重油加熱炉によっていた。 ナイター: 溶融硝酸塩でKNO3、NaNO3、NaNO2等の混合物で538℃まで使用でき、熱媒体として使われる。 |
原因 |
以下のような推定が行われている。 1.爆発は、他の装置や配管からの誘爆ではなく、蒸留缶単独で起こったものと考えられる。 2.蒸留缶内が30mmHgの減圧が維持できていること、および蒸留塔、凝縮器に内部爆発のあとがないこと等から考えると、空気が混入して爆発性混合気が生じた可能性は低い。 3.少量混入してくる無水マレイン酸と前処理に使用した水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)が反応して爆発するケースも、その沸点を考えると、可能性は低い。 4.蒸留缶の欠陥により、ナイター(硝酸塩)が缶内に漏れて反応、爆発した例は報告例が多い。 これらから、ナイターが缶内に漏洩し、無水フタル酸または不純物が、混触し、反応したものと推定された。 |
対策 |
1.ナイターのような酸化剤を有機物の加熱に使用することを避ける。 2.使わざるを得ないときは、メンテナンスを十分に行うべきである。 |
知識化 |
有機物を加熱する熱媒体としてナイターを使う場合、ナイターが内部漏洩して有機物と接触すると激しい発熱反応を起すので、注意が必要である。 |
背景 |
1.メンテナンスの不備により、ナイターを内部漏洩させた。またナイターの危険性を熟知していなかった可能性がある。 2.ナイターは伝熱性がよく、149~538℃という温度範囲で広く熱媒体として利用されているものである。元来強酸化性のものであって、有機物と溶融状態で接触すると激しい爆発を起こすことが知られている。 |
データベース登録の 動機 |
物質の危険性に対する基礎知識の欠如がもたらした事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、仮想演習不足、異常時の想定不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、点検不良、破損、減肉、腐食、割れ、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、5名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額4000万円
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情報源 |
M化学工業(株)O工業所無水フタル酸製造プラント事故災害調査報告書(1967)
日本損害保険協会、防火指針11 石油化学工業防火・防爆指針(1970)、p.116-118
日本火災学会化学火災委員会、化学火災事例集(1)(1971)、p.148
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負傷者数 |
5 |
物的被害 |
蒸溜缶100m四方に飛散、精製プラント大破。民家約1000戸のガラス |
被害金額 |
4000万円(M化学工業(株)O工業所無水フタル酸製造プラント事故災害調査報告書) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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備考 |
爆発を起こした蒸留缶の仕込み原料は、初溜品で、不純物の多いもの、および水で濡れた品質の良くないフタル酸であって、不良品からできるだけ多く精製品を取出す目的で操作しているものである。その作業条件は、無水フタル酸液温165-180℃、缶内圧力30mmHG(abs)、熱媒体温度280-300℃、炉温500-550℃であった。 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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