事例名称 |
デヒドロ酢酸の不適切な原料組成による合成中の爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1967年10月02日 |
事例発生地 |
熊本県 水俣市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
デヒドロ酢酸の中間規模製造実験中に爆発、火災に至った。反応原料中の不純物により異常反応が起こった可能性が大きい。 |
事象 |
デヒドロ酢酸の中間規模製造試験において、異常反応が起こり、爆発・火災に至った。 |
プロセス |
研究開発(開発) |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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化学反応式 |
図3.化学反応式
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物質 |
無水酢酸(acetic anhydride)、図4 |
ジケテン(diketene)、図5 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1. 無水酢酸回収缶を利用してデヒドロ酢酸の中間規模製造試験を行った。 2. 粗無水酢酸80%、粗ジケテン12%、触媒(NaOH)8%の割合で、内容積6m^3の反応槽に1.6m^3をドラム缶から窒素圧で圧入した。その後ダウサムにより加熱させて反応を開始した。 3. 原料仕込後約3時間後にNaOHを添加し(350g)し、さらに10分後第2回目の添加(500g)を行った。 4. 約6時間後、反応槽内の温度が70℃に達したので、ダウサムボイラのスイッチを切り、様子を見たが、温度は徐々に上りつづけ、約15分後には86℃まで達し、その後まもなく反応槽が爆発、出火して工場内に拡大した。 なお、反応槽は無水酢酸回収缶を利用した。 |
原因 |
ジケテンと無水酢酸がアルカリ存在下において異常反応を起こして発熱、反応槽内圧力が上昇したものと推定される。この異常反応の原因として以下が考えられる。 1.ジケテン、無水酢酸とも工場の製造工程からドレンとして出たものを精製せずに使用した。そのため、含まれていた不純物が作用した。さらにドレン中のジケテン濃度が実験では15%程度だったのが、試製時は20%に上がっていた。 2.無水酢酸の回収缶として使用していたものを、反応槽として用いたため、缶内に付着していた残渣(不純物)が作用した。 3.ビーカーとフラスコによるラボスケールからのスケールアップに問題があった。 4.排気のために設けられていた内径25mmの開放管が安全装置としての役割を果たすことができなかった。 |
知識化 |
潜在的危険性の大きな物質を扱う際には、特に不純物との異常反応についての事前評価が不可欠である。 |
背景 |
1.研究開発に当たり、反応安全に関する調査・実験等が不十分であった。その理由を以下に示す。ジケテンは、アルカリの存在で重合しやすい性質を持つ。また、種々のサンプルについて実験を行った結果、オートクレーブ内部の温度が90℃を越えるあたりから温度および圧力の急激な上昇が始まり、最高温度169℃で圧力1.4MPaGを示すことが分った。また、研究過程で使用されていたドレン中のジケテン濃度は15%程度だったのに対し、中間規模試験に用いられたものは、20%以上と、高濃度であったことも、反応の進行を急激にした原因と考えられる。 2.合成実験の基本の一つは供給原料の組成を明確にすることだろう。最初は純品で行い、それから不純物の影響を注意深く観察しながら行うのが一般的である。明らかに実験手順無視、管理不在の実験と考えられる。 |
データベース登録の 動機 |
物質の危険性に対する基礎知識の欠如のため起こった事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、事前検討不足、潜在危険性評価不十分、価値観不良、安全意識不良、安全対策不足、縮合反応、計画・設計、計画不良、設計不良、製作、ハード製作、転用品使用、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、6名負傷
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情報源 |
日本火災学会化学火災委員会、化学火災事例集(2)(1974)、p.125
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.31
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.44-45
労働省労働基準局、工場災害の事例と対策、日刊労働通信社(1969)、p.549-550
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負傷者数 |
6 |
物的被害 |
反応釜は数個の破片となって50から60mの距離まで飛散.工場半壊 |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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図5.化学式
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備考 |
WLP関連教材 ・化学プラントユニットプロセスの安全/混合 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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