事例名称 |
ドラム缶に入ったアクリル酸の小分け後の保管中の爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1969年01月19日 |
事例発生地 |
神奈川県 横浜市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
鉄骨スレート葺き4階建ての工場の1階に置いてあったアクリル酸入りの容量200Lのステンレス製ドラム缶1本が突然爆発した。天板が吹き飛び、空気中で噴出ガスに着火して、ガス爆発が起こり、工場建物が全壊した。固化したアクリル酸を取り出すのに、部分溶融させて行っていた。溶融固化の繰返しの間に重合禁止剤が液側に移り、徐々に濃度が下がっていった結果と推定された。 |
事象 |
約1ヶ月前に納入されたアクリル酸入りドラム缶5本が低温のため凝固していた。使用するため溶融する必要が生じた。その内の1本は、100V、 750Wのバンドヒータを使用して、中身を融かし、プラスチックのハンドポンプをその都度挿入して小出しにしていた。その作業を何回か繰り返した。その後、ヒータの電源を切り、蓋をして放置しておいたところ、3日目に爆発が起こった。ドラム缶の天板が吹き飛び、急激な内圧の低下により残存していたアクリル酸約100Lが蒸気爆発し、空気中に放散され、ミストが着火、爆発した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
溶融・溶解 |
物質 |
アクリル酸(acrylic acid)、図2 |
事故の種類 |
漏洩、爆発 |
経過 |
1. 凝固したドラム缶入りのアクリル酸を加熱して部分的に溶融した。 溶融方法はドラム缶の側面に750wのバンドヒータを巻きつけ、全体をグラスファイバーで覆った。それからバンドヒータに通電した。 2. 溶融した液をポンプで汲み出した。この作業を3回繰り返した。 3. 最後の汲み出しから3日後に爆発が起こった。 最初は自然重合を起こした。その反応熱により温度が上昇し、暴走反応に移行した。蒸気圧が上昇し、ドラム缶の天板が吹き飛んだ。内圧の急激な低下によりドラム缶内に残存していたアクリル酸約100Lが蒸気爆発した。空気中に放散されたミストが着火、爆発した。 |
原因 |
1.部分溶融、溶融液の取り出し、凝固を繰り返した間に、反応暴走を防止するための重合禁止剤が、溶融液に移行した。その結果、残存して凝固しているアクリル酸側には重合禁止剤の濃度が低下したと考えられた。 2.ドラム缶材質のSUS32(旧JISオーステナイト系ステンレス)および小出し作業中の鉄さびなどの混入により重合反応が促進され、暴走反応が進行した。 |
対策 |
完全に全体が溶融してから、小分け分を取り出す。 |
知識化 |
1.添加剤と添加される物質では、凝固点、融点が異なるのが通常である。部分融解、凝固を繰り返せば添加剤濃度が異なってくる。 2.最初に重合防止剤が入っていても、種々の条件によって、それが取除かれて、効果がなくなることがある。 |
背景 |
重合禁止剤が熱したアクリル酸に溶解しやすく、溶融したアクリル酸に固体状のアクリル酸から移行することがわからなかった。事故当時としては不可抗力とも考えられる。 |
データベース登録の 動機 |
不注意な作業により重合防止剤濃度が減少した例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、無知、知識不足、経験不足、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、運転・使用、溶解方法、不良現象、化学現象、濃度変化、二次災害、損壊、爆発、組織の損失、経済的損失、工場建物全壊
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情報源 |
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.146
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.250
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物的被害 |
鉄骨、スレート葺き4階建て工場建物全壊。 |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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