失敗事例

事例名称 5-クロロ-1,2,3-チアジアゾールの反応中の原料アンモニアの逆流による配管内での爆発
代表図
事例発生日付 1980年02月13日
事例発生地 香川県 坂出市
事例発生場所 化学工場
事例概要 医薬品粗原料である5ATを製造するため、5CTと液体アンモニアを混合器経由で反応槽に供給していた。反応槽温度が不安定なため、手動運転と自動運転を繰り返していた。ある時点で圧力異常を検知したため、5CTの供給を停止し、ついで液体アンモニアの供給停止をすべく準備をしていた。突如アンモニア供給圧が低下し、引続き爆発が起こった。アンモニアが加温されている5CT配管に逆流(推定)し、異常反応が起こった。設備や運転上の幾つかの不備が重なって発災した。
事象 医薬品原料である5-アセチルアミノ-1,2,3-チアジアゾール(5AAT)は、5-クロロ-1,2,3-チオジアゾール(5CT)を液体アンモニアでアミノ化して5-アミノ-1,2,3-チアジアゾール(5AT)を得て、さらにアセチル化して得られる。最初の5ATの製造装置の試運転中に5CTを反応塔へ送りこむステンレス製高圧パイプが爆発した。
新設プラントの最初の運転での事故である。
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図2.AT化反応プラント図
図3.単位工程フロー
反応 その他
化学反応式 図4.化学反応式
物質 5-クロロ-1,2,3-チアジアゾール(5CT)(5-chloro-1,2,3-thiadiazole(5CT))、図5
5-アミノ-1,2,3-チアジアゾール(5AT)(5-amino-1,2,3-thiadiazole(5AT))、図6
事故の種類 爆発
経過 5AT製造の反応装置は、発災当日、通常0℃前後である反応槽の温度が不安定であった。このため自動運転と手動運転を繰り返していた。ある時点で反応槽の圧力が1.5MPaGを超えたため、自動から手動に切り替え、圧力調節弁の開度調整および5CTの供給バルブの閉止を行った。作業者は、計器室に戻り反応槽の圧力をみると異常に高かったため、液体アンモニアの供給も停止するべく現場に赴いたが、その時点でアンモニア送給用ポンプ圧力は2.0~3.0MPaGであった。しばらくして突然この圧力が0.5MPaG程度に降下すると同時に、反応槽へ送給するCT配管の5CT供給ポンプと混合器の間の配管で爆発が起こった。
原因 1.アンモニア供給圧力が急激に低下した。
2.事故発生後に混合器の止め弁から塩化アンモニウムが検出された。
上記の2点から、原因は以下のように推定された。液体アンモニアが混合器から加温されている5CT側配管中に逆流した。そのため、5CT配管中で5AT化反応が進行した。その反応熱により5ATまたは5CTが爆発を起こした。
 混合器: アンモニアと加温された5CTを反応に先行して混合する配管状の機器
対策 1.設備対応
(1) 混合器からアンモニア等の原料が逆流しないよう逆止弁等を設ける。
(2) 固体の副生物が目詰まりを起こさないよう配管、バルブ等について構造上配慮する。
(3) 温度および圧力が一定範囲を外れたときは、警報が作動するようにするとともに、原材料送給の緊急遮断、生成物の緊急放出が行える安全設備を設置する。
(4) 圧力調整弁、冷却液送給弁など重要なバルブ類は、できれば計器室でも操作できるようにする。
2.運転管理体制
(1) 反応槽の温度、圧力が不安定であったり、設定値を超えて上昇傾向にある場合には、他の設備における異常の有無なども含め十分な検討体制をとる。
(2) 異常時、緊急時の操作基準を明確に定め、定期的に教育訓練を行う。
(3) 従来取扱い経験の少ない物質など危険性の情報が不十分である物質については、関係する反応の発熱量、熱的不安定性、衝撃危険性などについて少量の試料を用いてあらかじめ調査し、反応特性、分解特性、発火燃焼特性などについてできるだけ把握しておく。
知識化 1.5CTは、当時は知られていなかったが、潜在危険性を有する物質である。危険性が不明な物質を扱う際には、危険性の把握や、事前評価が不可欠である。
2.物質の流れは圧力の高い方から低い方へ流れる。そのことを理解してないと逆流防止はできない。
背景 1.液化アンモニアと5CTの混合器で、5CT側供給管に逆止弁等がなく、アンモニアの逆流を生じるような構造であった。逆流は、アンモニアのポンプを稼働させながら5CT供給ポンプを止めれば、5CT側圧力が下がり当然起こる事象である。接触したら反応することが分かっているので、設備も運転法もそれに合わせる必要がある。
2.危険な温度、圧力に達したときの警報設備、緊急遮断装置などの安全装置が不備であった。副生物である塩化アンモニウムによる配管が目詰まりを起こすような構造だった。反応槽の温度が不安定で、徐々に温度上昇があったにもかかわらず、各部のチェックが不十分であった。
3.緊急時の操作基準が明確になっていなかった。5ATおよび5CTの熱分解の危険性、特に低温における分解挙動に関する検討が不足していた。
4.運転に関する基本的知識が欠けていたこと、反応危険に対する備えが十分にされていなかったことに要約される。
データベース登録の
動機
"逆流したら異常反応から爆発危険"を感じながら対応が取れなかった例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、事前検討不足、物性把握不十分、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、アミノ化反応アセチル化反応、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、誤操作、圧力監視不十分、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、負傷、3名負傷
情報源 労働省安全衛生部安全課編、新版 労働災害の事例と対策、中央労働災害防止協会(1984)、p.210-211
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.133
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.58-59
負傷者数 3
物的被害 受け槽大破
マルチメディアファイル 図5.化学式
図6.化学式
備考 WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/移送
・化学反応の安全/化学反応の安全概論
分野 化学物質・プラント
データ作成者 新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)