事例名称 |
有機過酸化物製造用薬品の一部をナトリウム系からカリウム系に替えて爆発 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1988年06月13日 |
事例発生地 |
愛知県 武豊町 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
DCPを製造する装置で一週間前から流量計の詰まり現象が生じていた。真因を追究せずに、応急的対応で運転していたところ突如爆発した。反応助剤をNaOHからKOHに変更し、その変更後のプロセス状況が変わったことに起因する爆発である。反応危険性に対する評価が行われていたならば、防止できた可能性がある。 |
事象 |
クメンヒドロペルオキシド(CHP)とα-クミルアルコール(α-CA)を主原料とし、ジクミルペルオキシド(DCP)を製造する装置の反応部において、熟成温度調整を目的とした外部熱交換器(スパイラル型)の流量計に異常を示す警報が鳴り、その後、熱交換器が爆発し、配管等から噴出した内容物が炎上した。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.製造フロー
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図3.単位工程フロー
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反応 |
重合・縮合 |
化学反応式 |
図4.化学反応式
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物質 |
ジクミルペルオキシド(di-α-cumyl peroxide)、図5 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1. DCP製造装置で、発災の約一ヶ月前に、原料のCHPの安定剤を水酸化ナトリウムから水酸化カリウムに変更した。もう一つの原料であるα-CAの反応触媒も水酸化カリウムに変更した。 2. 発災の1週間前くらいから、熟成槽と外部熱交換器の循環配管の流量計に、詰まりによると思われる流量異常が起こっていた。 3. 発災当日、装置は通常通り運転されていた。外部熱交換器と熟成槽の循環配管の流量計に異常を示す警報が計器操作室で鳴った。このため、作業員1名がプラント現場へ出向いた。その直後、熱交換器が爆発し、配管等から噴出した内容物が炎上した。 4. 火災により、槽類、ポンプおよび計装機器を含め、プラントの約100m^2を焼失したほか、出向いた作業員1名が爆発の火炎で火傷を負った。 |
原因 |
原料のCHPには安定剤として、またα-CAには反応触媒として、水酸化カリウム(KOH)が使用されていた。従前は、水酸化ナトリウムが使用されていたが、約1ケ月前に品質向上のため水酸化カリウムに変更した。DCP製造反応系では、触媒として過塩素酸(HClO4)を使用しているため、主原料に含まれるようになった水酸化カリウムと中和反応を起こし、水に溶解しにくい過塩素酸カリウム(KClO4)が生成した。KClO4は、反応槽より非水系の熟成槽でより多く析出し、熱交換器のスパイラル壁に沈着した。さらにKClO4は過塩素酸(HClO4)と錯体を形成し、HClO4の濃縮化が行われた。これらのKClO4、濃縮HClO4および半製品DCP等の混合により、爆発性混合物が形成され、低温(42℃)で発熱分解し、事故に至ったと推定される。 |
対策 |
新製品開発に際しては、二次的反応生成物等について、十分な安全性の確認を行うことが必要である。爆発した熱交換器の出口側に設置されている流量計は、一週間前から異常が生じていた。ところが、詰まりの原因を追究しての根本的な対策をとらず、応急的に流量調節弁の開閉および送液ポンプの切換えを行っていて、事故が発生した。このことから判るように、トラブル発生の際には、抜本的な原因の究明が大切である。 1.原料中に水酸化カリウムが混入しないプロセスにするとともに触媒を水酸化ナトリウムに変更する。 2.点検用ステージを設け、熱交換器の分解点検を容易にする。 3.熱交換器内部を温水洗浄が簡単にできる洗浄ラインを新設し、閉塞を防止する。 4.熱交換器出口温度の記録化および警報機の設置を図る。 |
知識化 |
1.カリウム、ナトリウムのアルカリ金属同士、あるいはカルシウム、マグネシウムのアルカリ土類金属同士は比較的その化学的傾向が似ているが、生成物の溶解度や反応速度まで一致しているわけではない。常に置き換え可能とは限らない。 2.反応の主成分でないからといって、簡単に薬品を変えてはならない。十分な反応危険に関する検討が必要である。 |
背景 |
使用薬品を変更する時に、混合危険に付いて十分な検討を行っていなかった。変更管理の問題である。 |
データベース登録の 動機 |
反応の危険性に対する基礎知識の欠如がもたらした事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、仮想演習不足、想像性不良、無知、知識不足、勉学不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、縮合反応、計画・設計、計画不良、原料変更計画不良、定常操作、誤操作、異常値への対策行動なし、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、1名負傷、組織の損失、経済的損失、プラント焼失
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情報源 |
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1989)、p.182
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例100(1991)、p.20-22
田村昌三、若倉正英監修、反応危険 ‐事故事例と解析‐、施策研究センター(1995)、p.65
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負傷者数 |
1 |
物的被害 |
外部熱交換器破損 |
マルチメディアファイル |
図5.化学式
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備考 |
NaClO4の溶解度 70.9g/100gH2O KClO4の溶解度 3.6kg/100gH2O |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
新井 充 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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