失敗事例

事例名称 製油所のブローンアスファルトタンクの壁面付着物の酸化蓄熱による火災
代表図
事例発生日付 1990年10月23日
事例発生地 岡山県 倉敷市
事例発生場所 製油所
事例概要 製油所のブローンアスファルト貯蔵タンクからタンクローリーへの払い出し中に、タンクのドーム型屋根が膨らんだ後、破裂し、火災が吹き出し、アスファルトが流出した。タンク上部に軽質分が付着し、酸化蓄熱した結果と考えられる。
事象 製油所の、ブローンアスファルト貯蔵タンクからタンクローリーへの払い出しの最中に、爆発音とともに屋根部が破損,保温材などが散乱し,黒煙が発生した。タンク底板外周部の亀裂などからアスファルトが流出し,周辺に拡散した。図2参照
プロセス 貯蔵(液体)
単位工程 その他
物質 アスファルト(asphalt)
事故の種類 破裂、火災、漏洩
経過 発災3日前の1990年10月20日までブローンアスファルトが製造され,受け入れられていた。
当日の23日も平常通り,出荷ポンプで出荷場を経てタンクに戻る循環を行っていた。
14:44頃 ローリーへの積み込み作業を開始した。
 タンクのドーム型屋根の北側から膨らみ始めた。
14:46頃 屋根全体が膨らんだ後、屋根中央部が破裂した。
 火炎が吹き出し,屋根がタンク内部に落ち込み,南側の側壁上部が内側に折れ曲がった。
 タンク底板外周部の亀裂などからアスファルトが流出し,周辺に拡散した。
原因 ブローンアスファルトのタンク貯蔵温度は、通常のアスファルトより50℃以上高く220℃程度である。そのためブローンアスファルト中の軽質分が長期の間にタンク天板内面に付着し,次第に酸化されて蓄熱発火に至った可能性が大きい。タンクに窒素シールはなされていなかった。
対処 1.発災タンクの加熱管の閉止。
2.アスファルト製造プラントの停止。
3.消火用スチーム配管は折れ曲がり使用を断念。
4.冷却放水。
対策 1.窒素シールおよび可燃性ガス濃度の定期的な測定。
2.天板温度の測定による天板内側の状態の監視。
3.設備管理基準の見直し。
4.軽質分の蒸発防止のため貯蔵温度の低減。
5.標準の見直しと従業員の教育。
知識化 ブローンアスファアルトは、貯蔵温度が通常のアスファルトより50~60℃高く、軽質分を放出しやすい。その対策として窒素シールが必要であろう。タンク上部に付着物がある事はやむを得ないだろう。
背景 タンクの貯蔵温度が高く、タンクに窒素シールを行っていない。そのため、アスファルトから軽質分が気相部に蓄積し、タンク気相部のガスがタンク壁等に付着、酸化や重合することはあり得ることなので、発災した条件になることは予測不可能ではないと思われる。国外文献には天板付着物が190℃で自然発火発熱するとの指摘もある。国内で最初のブローンアスファルトタンクの火災と思われるが、特性を見落とした管理といわれても仕方がない。
よもやま話 ☆ ブローンアスファルトは製造時に圧縮空気を吹き込んで、酸化重縮合させる。そのためブローンアスファルト表面はブツブツと泡立っていると、あるエンジニアは言っていた。このようなことは、ブローンアスファルトタンクの気相部の付着物に影響の可能性がある。
データベース登録の
動機
あまり起こらないと考えられていたアスファルトの自然発火例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、調査・検討の不足、事前検討不足、外部情報収集不足、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、化学現象、酸化、蓄熱、破損、大規模破損、破裂、二次災害、損壊、火災・漏洩、組織の損失、経済的損失、直接損害額1500万円
情報源 安全工学協会編・倉敷市水島消防署、火災爆発事故事例集(2002)、p.119-124
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1991)、p.214-217
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.84-86
田村昌三,若倉正英監修、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.117
物的被害 アスファルトタンク,タンク屋根,ブローンアスファルト504キロリットル.ブローンアスファルト流出量約320トンと推定
被害金額 約1500万円(反応危険 -事故事例と解析-)
マルチメディアファイル 図2.タンク図
備考 酸化蓄熱発火
WLP関連教材
・化学プラントユニットプロセスの安全/貯蔵
分野 化学物質・プラント
データ作成者 和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)