失敗事例

事例名称 炭化カルシウムのドラム缶からの取り出し時に内部に溜まっていたアセチレンガスの爆発
代表図
事例発生日付 1991年12月17日
事例発生地 愛知県 名古屋市
事例発生場所 化学工場
事例概要 炭化カルシウムをドラム缶から取り出す作業で、アセチレンガスの爆発火災が起こり、作業員1名が死亡した。作業員が定められた手順を守らずに、ドラム缶の蓋を開けたことが原因とされた。炭化カルシウムは水と反応して可燃性ガスのアセチレンを発生する。定められた手順はアセチレンガスが発生している場合にも対応でき、外観検査後に窒素雰囲気中で取り出すことになっていた。管理不十分と作業手順無視の結果である。
事象 アセチレンガスを製造する工場で、炭化カルシウムをドラム缶から取り出す作業中、内部に充満していたアセチレンガスが爆発した。ドラム缶の上蓋が飛び、作業者の顔面に当たり、その衝撃で転倒して後頭部を強打し、死亡した。アセチレンガス発生の反応式を図3に示す。図2参照
プロセス 製造
単位工程 仕込
化学反応式 図3.化学反応式
物質 炭化カルシウム(calcium carbide)
事故の種類 爆発
経過 1. アセチレンガスを発生させる原料の炭化カルシウムをドラム缶から取り出す作業を開始した。
2. この炭化カルシウムのドラム缶を直接電気ドリルで開蓋しようとした。
3. ドラム缶内に充満していたアセチレンガスが爆発した。
4. 上蓋が飛び作業者の顔面に当たった。
5. 衝撃で転倒した。
6. 作業者はヘルメットを着用しておらず,後頭部を強打し,死亡した。
原因 爆発したガスはアセチレンであった。ドラム缶の炭化カルシウムとドラム缶(225kg入り)に漏れ込んだ水との反応で発生し、ドラム缶に充満していた。爆発後の炭化カルシウムのドラム缶の天板の中央に約16mmの亀裂が認められたため、この部分から水分が侵入し炭化カルシウムと反応してアセチレンガスが発生していたと考えられる。作業者が事前に外観検査を行っていなかった可能性があり、水の侵入によるアセチレンガスの発生を予見できなかった。また、窒素ガスの封入を怠ったために、可燃性混合気が形成された可能性がある。作業手順を守っていなかったことが事故の直接的な原因で,適切な防護具を着用していなかったために被害が拡大した。
対処 被害者を病院に搬送した。
対策 1.ドラム缶の外観検査を徹底する。
2.開蓋作業,ドラム缶の転倒作業の機械化を行う。
3.作業中は保護具を着用する。
知識化 炭化カルシウムのように誤った取扱いによって可燃性ガスを発生する物質の保管・取扱いには特性に応じた安全対策をとる。
背景 1.炭化カルシウムをドラム缶から取り出す作業手順は、上蓋にタガネで穴を開け、窒素ガスを封入しながら電気ドリルで開蓋するよう決められていた。しかし、作業員は安全確保を意図したこの規程通りの作業をしなかった。作業手順の外観検査や窒素置換の意味、炭化カルシウムと水との反応や、発生するアセチレンガスの危険性について十分な教育がなされず、危険性の認識が不足していた可能性がある。
2.管理者側が炭化カルシウムと水との反応性を十分に理解していなければ、教育も保管中の管理も適切に行えない。
よもやま話 ☆ 作業手順を守っていればおそらく防ぐことができた事故である。しかし,慣れてきても作業手順を守らせるためには,単に作業手順を指導するのではなく,取扱い物質の危険性について十分に教育し,作業手順を納得させることが必要である。
データベース登録の
動機
なぜこのような手順無視が起こるのか,取り扱っている物質の危険性を認識していたかどうかの検討の必要性を感じさせる例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、理解不足、リスク理解不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、使用、輸送・貯蔵、保管不良、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例-平成3年(1992)、p.32、338-339
死者数 1
マルチメディアファイル 図2.概要図
備考 混触反応,可燃性混合気形成
分野 化学物質・プラント
データ作成者 和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)