事例名称 |
浮き屋根式タンクのポンツーン内部塗装工事で電動式スプレーの使用による爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1994年06月24日 |
事例発生地 |
千葉県 市原市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
1994年6月24日 製油所のタンク改造工事で密閉箇所のペンキ塗り作業を行っていた。作業指示は手塗りであったが、それを無視し、効率を上げるため電動式スプレーガンを用い、さらに換気も不十分だった。ペンキ溶剤のトルエン蒸気が爆発した。 |
事象 |
タンクの屋根型式を浮屋根式から固定屋根付浮屋根式にする改造工事において,浮屋根のポンツーン内部の塗装作業中にポンツーン内部で爆発が起こり,作業員1名が死亡し,1名が負傷した。ポンツーンが変形し,着火した塗料によって浮き屋根のシール部が焼損し,側壁の塗料が熱により剥離した。図2参照 ポンツーン: 浮き屋根を浮かせる鋼鉄製の浮き。浮き屋根の周囲に取り付ける小部屋である。 |
プロセス |
貯蔵(液体) |
物質 |
トルエン(toluene)、図3 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1884年6月24日 製油所のタンク改造工事が行われていた。作業員2名と監視員1名でポンツーン内部の塗装作業を開始した。 1. 施工要領および朝礼時の指示では,刷毛またはローラー塗りとなっていたが,これを無視して電動式スプレーガンを使用した。 2. 大量のトルエンを主としたシンナーで希釈した塗料を使用した。 3. 1つ目のポンツーン内部の塗装を終了した。 4. 2つ目の塗装中に塗料を供給した。 5. 直後に電動式スプレーガンのスイッチによる火花で着火(推定)し、爆発が起こった。 6. 1名が爆風で吹き飛ばされ死亡,1名が爆風に煽られやけどおよび若干吹き飛ばされて打撲傷を負った。 7. 爆風によって倒れた塗料缶の塗料(約18L)に引火,火災が発生した。 8. タンク浮き屋根のシール材の一部を焼失し、熱により側板の塗装が剥離した。 |
原因 |
1.マンホールが開放されていたとはいえ、ほぼ密閉構造のポンツーン内部に可燃性混合気が形成された。これは塗装に大量のシンナーで希釈した塗料を用いていたことと、有効な換気がなされていなかった可能性が大きい。 2.着火源は非防爆型電動式スプレーガンのスイッチによる火花の可能性が大きい。起こって当然の最悪の事故であろう。 3.ポンツーン内の換気を行うように指示されていたが,有効な換気が行われていなかった可能性が大きい。 |
対処 |
タンク内部の消火活動,負傷者の救護。病院に搬送。 |
対策 |
1.密閉構造内でのスプレー塗装機の使用禁止。 2.密閉構造内での工事の換気の徹底。 3.作業機器,作業方法の監督,安全管理体制の確立,安全教育の徹底。 |
知識化 |
タンク内作業の様な危険度の高い工事では、発注者は工事手順書を示し、安全対策を指示するだけでなく、安全対策や工事手順が守られていることを確認する義務がある。 |
背景 |
指示を無視した作業方法が基本要因である。すなわち、 1.施工要領および朝礼時の指示では,刷毛またはローラー塗りとなっていたが,電動式スプレーガンを使用した。 2.ポンツーン内の換気を行うように指示されていたが,有効な換気が行われていなかった可能性が大きい。 3.規定の約10倍のシンナーで希釈していた。 単に禁止事項を通達しただけでは無視され、時間と労力が省略できる方法に取り替えられることがしばしばある。発注者と元請けは理由を付した説明をすると同時に、指示された安全な方法が守られているか、指導監督する責任があると考える。作業員は自らの作業内容は知っているが、それが危険か否かは判断できるとは限らないし、また、危険物を扱う工場ではさせてはいけない。指示違反が最大の要因だが、指示側にも無責任であると考える。 |
よもやま話 |
☆ 工事業者は危険状況を熟知しているわけではない。効率を重視して安全対策や手順を無視することがあると考えなければならない。 ☆ 工事の安全を確保するのは発注者側とその代行をする元請けにあり、設備そのものを安全な状態に維持するのは発注者側の責務であろう。 |
データベース登録の 動機 |
工事計画を無視して効率化を優先したために起こった事故例。 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、作業管理不良、無知、知識不足、思い込み、誤判断、誤認知、勝手な判断、使用、保守・修理、塗装、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、燃焼、二次災害、損壊、火災・爆発、身体的被害、死亡、身体的被害、負傷
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情報源 |
安全工学協会編・市原市消防局、火災爆発事故事例集(2002)、p.125-132
消防庁、危険物に係る事故事例-平成6年(1995)、p.29、128-129
大綱清隆、危険物事故事例セミナー(1995)、p.23-39
全国危険物安全協会、危険物施設の事故事例‐Case 100‐(1999)、p.24
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死者数 |
1 |
負傷者数 |
1 |
物的被害 |
屋外貯蔵タンク内で浮屋根ポンツーン変形,デルタシール一部焼損,側板一部塗装剥離.エポキシ樹脂及び溶剤(シンナー)18リットル被害. |
被害金額 |
980万円(危険物に係る事故事例) |
マルチメディアファイル |
図2.状況図
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図3.化学式
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備考 |
安全対策の不履行,可燃性混合気の形成 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
和田 有司 (独立行政法人産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門 開発安全工学研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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