事例名称 |
大学におけるモノシランガスへの亜酸化窒素ガスの逆流混合による爆発 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1991年10月02日 |
事例発生地 |
大阪府 豊中市 |
事例発生場所 |
大学研究室 |
事例概要 |
1991年10月2日に大学の実験室でモノシランガスを用いて実験中、モノシラン容器が突然爆発破裂して、2名が死亡し、5名が負傷した。モノシラン容器に亜酸化窒素がパージライン経由で混入して可燃性混合気が形成され、何らかの理由で爆発した。パージライン中に設置された逆止弁が亜酸化窒素に対して正常に機能しない形式のものであったことが重大な点である。 |
事象 |
大学の実験室でプラズマCVD装置を用いての実験中、爆発が起こり、学生2名が死亡し、5名が軽傷を負った。図2参照 なお、モノシランガスは空気中で自然発火することもあり、自然発火危険性の大きなガスである。 |
プロセス |
研究開発(研究) |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
|
物質 |
シラン(silane)、図4 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1991年10月2日午後4時頃、学生がプラズマCVD装置を用いてニオブ酸リチウム結晶上にシリコン膜を形成する実験中、同装置にガスを供給するモノシラン容器内で突然爆発が起こり、同容器が破裂して爆風及び飛翔物が発生した。この爆発により2名の学生が死亡し、5名が負傷した。また、この爆発により都市ガス及び有機溶剤に着火し、火災が発生した。 |
原因 |
プラズマCVD装置にはモノシランガスと亜酸化窒素ガスが供給される。この供給配管は独立していた。しかし、それぞれのパージラインは共用であったため、爆発したモノシラン容器と亜酸化窒素容器とはつながっていた。パージラインには逆止弁が入っていたが、事故時には機能に欠陥が生じており、亜酸化窒素がパージラインを通してモノシラン容器内に入り混合し、可燃性混合気を形成したと考えられる。発火原因については、バルブ操作に関連する圧縮による温度上昇、金属材料の触媒作用等が考えられる。 |
対策 |
1.逆止弁等の機器の、使用ガスに対する適合性を事前に十分にチェックする。 2.互いに反応する危険のあるガスのパージラインを別系統とする。 |
知識化 |
1.混合すると反応する危険のあるガスのパージラインは分離すべきである。逆止弁等の型式や材質は使用ガスに適性があるか事前に十分にチェックする必要がある。 2.半導体製造で使われている特殊ガスには危険なものが多い。危険の程度が分からない、取扱いに自信がない者は専門家に相談すべきであろう。 |
背景 |
1.逆止弁は逆流を防止するためにある。しかし、逆止弁一つで逆流を完全に防ぐことは実際には難しい場合がある。逆流を完全に防止するには、ブロック弁を閉めねばならない。さらに、この形式の逆止弁は亜酸化窒素に対して正常に機能しないものであったことが後の調査で明らかになった。新しい物質を取扱う時の事前の調査の不十分が真の要因だろう。 2.基本的には、可燃性ガス(モノシラン)と支燃性ガス(亜酸化窒素)とを、如何にパージラインとはいえ、同じ配管を使用してはならない。同時にパージされたら、配管で燃焼する可能性がある。 3.実験者がモノシランや亜酸化窒素等の化学物質の取扱いに不慣れな電子工学科の学生であり、十分な設備を設計できなかったことや、それを放置した管理体制にも問題がある。 |
後日談 |
この事故を契機に、高圧ガス取締法が改正され、モノシラン等の特殊高圧ガスを消費する者は、その消費量に係わらず、都道府県への届出を義務付けられることとなった。 |
よもやま話 |
☆ バルブは止まらない、逆止弁は圧の高いほうから低い方に漏れる。常に起こることではないが、残念ながらこれがバルブの特性と考えておかねばならない。 |
データベース登録の 動機 |
特殊高圧ガスによる重大事故 |
シナリオ |
主シナリオ
|
調査・検討の不足、事前検討不足、物性、使用可能材料等、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、計画・設計、計画不良、設計不良、機能不全、ハード不良、逆止弁漏洩、不良現象、熱流体現象、逆流、二次災害、損壊、爆発、身体的被害、死亡、2名死亡、身体的被害、負傷、5名軽傷、組織の損失、経済的損失、研究室の焼損と水損
|
|
情報源 |
高圧ガス保安協会、O大学モノシランガス爆発事故調査委員会中間報告書(1992)
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1992)、p.173-174、198-199
大学で実験中のモノシランガス爆発 1991年10月大阪府、写真が物語る20世紀の重大事故(セイフティエンジニアリング114号別刷)、No.114、PAGE16(2001)
|
死者数 |
2 |
負傷者数 |
5 |
物的被害 |
5階研究室(516及び518号室)49平方m焼失.隣接する3研究室延べ150平方m焼損.3階・4階の研究室各852平方m水損.シリンダーキャビネット,排ガス処理装置,モノシラン容器,実験設備,都市ガス栓,配管等破壊. |
マルチメディアファイル |
図2.配管概略図
|
図4.化学式
|
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|