失敗事例

事例名称 流動接触分解装置の緊急操作弁の遅い動きのため原料予熱系熱交換器からの原料油の漏洩、火災
代表図
事例発生日付 1998年01月17日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 製油所
事例概要 1.1998年1月17日 製油所の流動接触分解装置(FCC)の計器用空気停止のため緊急停止(ESD)システムにより緊急停止に入った。原料予熱系の内圧が異常上昇したためフランジから原料油が漏洩し、熱交換器の高温壁面に接触し着火した。
2.内圧上昇の原因は、緊急停止時に内液の温度低下による粘度上昇に起因する原料ポンプ循環弁の作動が遅れたことであり、計器用空気停止の原因は、空気除湿機の電磁弁作動不良であった。設備の管理不十分が真の原因と考えられる。
事象 製油所の流動接触分解装置(FCC)計器用空気の供給停止トラブルが起こった。そのため、FCCの原料予熱系統の緊急停止(ESD)システムが作動した。その後、原料供給系熱交換器(E-3104)のフランジから原料油である脱硫減圧軽油が漏洩着火した。
なお、計器用空気の供給停止は計器用空気除湿機の自動切替弁の作動不良が原因であった。計器用空気は凝縮水のトラブルを避けるため必ず除湿される。図2参照
 流動接触分解装置: ガソリン原料を製造する石油精製の主力装置の一つ。英語で、Fluidized bed catalyst cracking unitと言い、FCC(U)と略称する。
 ESDシステム: emergency shutdown システムの略称で緊急停止システムともいう。装置の想定された緊急事態に自動的に、安全に装置を停止するシステムをいう。計器用空気停止は緊急事態に必ず含まれねばならない。
プロセス 製造
単位工程 仕込
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
図4.単位工程フロー
物質 減圧軽油(vacuum gas oil)
事故の種類 漏洩、火災
経過 1998年10月17日16:02 FCCの計装用空気の空気除湿器の電磁弁の作動不良により計装空気が停止し、ESDシステムが作動した。
16:03~04 パトロール中の係員がE-3104熱交換器からの油漏洩を発見するとともに、前方にあるE-3103熱交換器付近から白煙が上昇していることに気付き、駆け寄った。
 その時、すでにE-3103熱交換器フランジ付近から炎が立ち上がっていた。
16:04~09 製造課員による消火活動を実施した。
16:09 鎮火を確認した。
原因 1.主原因: 液の粘度上昇による圧力逃し弁(図3のFICV-3106)の作動遅れ
2.着火原因: 高温表面熱。
FCCの計器用空気が停止した。そのため、FCC触媒の流れを監視している差圧計へのパージガスの供給ができなくなった。その結果、差圧計が誤指示を与えたことにより、ESDシステムが作動した。通常はESDシステムの作動により、反応塔への原料供給配管の緊急遮断弁が閉止され、同時に原料供給ポンプ吐出からの循環弁が開になる。それにより原料予熱系熱交換器の過剰な圧力変動とポンプ保護を行うが、発災当日は外気温が5℃と低く、さらに配管の保温状態が不十分であったため、減圧軽油の粘度が高くなり、約2分遅れで循環弁が開いた。そのため、一時的に原料予熱系統が閉鎖状態となり圧力上昇とともに、熱交換器フランジからミスト状の減圧軽油が噴出、他の熱交換器の高温表面熱と接触し、着火発災した。
対処 周辺火気の消火及び原料遮断
対策 1.原料予熱系の閉鎖状態の防止対策
 温度を一定に保つよう加熱用スチームトレースを増強する。圧力上昇防止のため、原料供給ポンプ戻し配管のオリフィス口径を大きくする。
2.管理体制の見直し
 当該事業所のFCCの事故が頻繁に発生(発生箇所は違うが3年連続)したことから、当該装置の安全対策について全面的な見直しを行う。
知識化 高温装置近辺での可燃性物質の漏洩はすぐに事故につながるため、内圧異常上昇の無いよう十分な配慮が必要である。
背景 1.原料の減圧軽油の粘度が異常に高くなっていた原因は、原料油の温度低下である。配管の保温が不十分であったために、外気温度の影響を受け原料油温度が異常に低下していた。圧力逃し弁の作動が粘度の低下で遅くなることは設計上知り得ていなければならないことであり、そのため冬季でも適切な温度が保てるようなスチームトレースなどの加温設備が十分に管理されている必要がある。設計からの情報の伝達が適切に行われていたのか、管理が十分ではなかった可能性がある。            
2.緊急作動のバルブの応答時間は、常に注意を払わなければならないテーマである。検出遅れ、制御に要する時間、さらにバルブの作動時間と全てを考えて検討する必要があるが、緊急作動弁を付けただけで安心することが多い。プロセス設計者と計装設計者が共同で取り組むべき問題である。しかし、難しすぎて気が付かない、あるいは検討しなかったのではと推測される。
よもやま話 ☆ 事故基本要因にも書いたが、緊急時の操作バルブは極く短い応答時間を要求されるものがある。しかし、プロセス設計者や計装設計者が気が付かないと何の検討もされないことがある。ほとんど使うことがない計装なので、失敗は表面化しにくい。
データベース登録の
動機
装置の管理不良が重なり漏洩火災事故に至った例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、安全対策不良、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、保温の維持不良、破損、大規模破損、漏洩、二次災害、損壊、火災
情報源 高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(2000)、p.146
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1998)
消防庁、危険物に係る事故事例-平成10年(1999)、p.58-60
物的被害 減圧軽油約1.8L焼失.熱交換器周りの保温カバー及び2階フロアー等約20平方m焼損
被害金額 165万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)(危険物に係る事故事例)
マルチメディアファイル 図2.復元図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)