事例名称 |
タンクローリー充填所における炭化水素蒸気回収配管からのヘキセン-1の火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年02月18日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
油槽所 |
事例概要 |
タンクリース会社のタンクヤードに付帯するローリー充填所で火災が起こった。そのローリー充填所は、ローリーの積込み時に発生する炭化水素蒸気の回収設備(VRU)を備えていた。 ローリーの入り口側とVRUを直接連絡するバイパス弁を開、ローリーへの積込み主弁を閉のまま、ローリーへの充填を開始した。そのため、積込み中のヘキセンー1が、バイパス弁を経由して吸気口から漏洩し、近傍にいたフォークリフトのエンジンにより着火し火災となった。さらに、充填ホースを取り外さないでローリーを緊急移動させたため、ホースが切断しタンク内から漏れたヘキセンー1及びタンクローリー左側の積込口付近にさらに延焼した。 |
事象 |
危険物タンクリース会社のローリー充填所において火災が発生した。タンクローリーにヘキセンー1(第4類第1石油類)を充填中、当該施設の炭化水素蒸気回収配管に液体のヘキセンー1が流入し、同配管の空気取入口(吸気口)から漏洩した。タンクローリー運転手が緊急停止ボタンを押した。漏洩したヘキセンー1は直下に停止していたフォークリフト付近より出火し、フォークリフト1台及び充填所の一部を焼損した。さらに、この火災に気が付いたタンクローリー運転手が、タンクローリーを緊急移動させた。このため、結合されていた充填ホースおよび炭化水素蒸気回収ホースが、タンクローリー側結合部付近で破断し、出火した。当該タンクローリーが炎上した他、タンクローリーが停車した直近の建物2棟の外壁等を焼損した。 |
プロセス |
貯蔵(液体貯蔵設備出荷・受入) |
単位工程フロー |
図2.配管図
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図3.単位工程フロー
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物質 |
ヘキセン-1(hexene-1)、図4 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
2000年2月18日12:45頃 当該事業所に発災したタンクローリーが入構した。(当日3回目の入構) 14:40頃 ローリー充填所No.1スポットにおいて、ヘキセンー1の充填作業を開始した。 14:45頃 約1.7KLを充填したところで、車両右後方上部の配管ラック上に位置する炭化水素蒸気回収配管吸気口からヘキセンー1が漏洩し、床面に滴下した。タンクローリー運転手はNo.1スポットの緊急停止ボタンを押したものの、直近に置いてあったフォークリフト付近より出火した。 14:47頃 あわてたタンクローリー運転手が充填作業の状態で、車両を緊急移動したため結合していたホースがタンクローリー側結合部付近で破断し出火、タンクローリーは炎上しながら約30m走行し、正面出入口付近(受付棟及び事務所棟前)で停止した。自衛消防隊員6名で粉末消火器によりフォークリフトの消火活動を実施した。 14:48頃 自衛消防隊員10名で粉末消火器によりタンクローリーの消火活動を実施するとともに私設消火栓2基よりホースを延長し、フォークリフトへの放水活動を実施した。 |
原因 |
以上各項から、ヘキセンー1が漏洩し、着火に至った原因は、次のとおり推定される。 (1)タンクローリー運転手が、ヘキセンー1を充填する際、ホースブロー後、バイパス弁を開のまま充填を開始したため、ヘキセンー1が、バイパス弁を経由して炭化水素蒸気回収配管に流入し、同配管末端部に設けられた吸気口から漏洩した。漏洩部周辺にヘキセンー1の蒸気が発生した。なお、バイパス配管は作業開始時のホースブロー時だけに使用し、充填時バイパス弁は閉止する。図2参照 (2)漏洩部直近に停車していた、エンジンが可動していたと推定されるフォークリフトのエンジンルーム下側に、滞留していたヘキセンー1の蒸気が回り込み、燃焼範囲に達して、エンジン周囲の発熱部あるいは、エンジンルーム内の電気装置から発生した電気的火花により引火した。 (3)一方、漏洩部から発生したヘキセンー1の蒸気は流動し、No.1スポット周辺に広範囲に滞留していたため、フォークリフト付近での着火により、予混合火炎を形成し延焼した。そして、ローリーが移動した際、ホースが切断したことにより、タンク内から漏れたヘキセンー1及びタンクローリー左側の積込口付近にさらに延焼した。 |
対策 |
1.ローリー充填作業時の保安監督者の立会い徹底(早朝時の混雑時は立会い者を1名増員する。) 2.安全教育の改善(出入の輸送関係者の教育訓練を年2回実施するとともに、ヘキセンー1の充填作業については、充填所担当者と輸送関係者は作業ミーティングを月1回行う。) 3.第4類第1石油類の充填作業中は、保有空地内にフォークリフト等が立ち入らないよう出荷監視警告灯(黄色回転灯)を設置して、充填中点灯させる。 4.作業マニュアル及びチェックシートを改定し、充填所立会者と運転手が相互に確認しながらチェックを行い、作業を行う。 5.入出荷監視システムプログラムを改造し、第1石油類タンク積込データーのみ、必ず1回目は自動的に緊急停止をかけ、充填所立会者から立会準備完了の連絡を受けた時点でリセット後、積込可能にする。 6.第1石油類積込車両には入構時、表示板を渡し、フロントガラスの見える位置に表示させ、充填所立会者が人目で分かるようにする。 7.タンクローリーのバイパス弁を「開」の状態にしている時は、警告灯とブザー(いずれも防爆型)が鳴る装置をタンクローリーに取付ける。 |
知識化 |
ローリー運転手の操作ミスにより火災発生し、火災発生後に充填ホースを結合したままでローリーを移動したため火災を拡大させた。充填操作者の教育を徹底するとともに、立ち会い者をつける等安全管理の徹底が必要である。 |
背景 |
1.運転の慣れ、あるいは操作ミスが最大の要因であろう。ローリー充填の主弁を開けずにバイパス弁開のままで作業をしたこと、ガソリン使用のフォークリフトをエンジンが掛かったままローリーステイションに駐車していたことなどからこれらのミスが推測される。 2.ローリーが緊急移動した際、ホースをつけたままだったのが、拡大要因になっているが、気が動転したパニックに近い状況で、ホースを外してから動かす様に行動することは普段からの十分な教育がないと難しい。 |
よもやま話 |
☆ 危険物取扱いの近くに入る自動車類の排気管には最低限フレームアレスターをつけて、着火防止をはからねばならないだろう。常に危険物近くで作業する工事用フォークリフトは防爆型のバッテリーフォークの使用が望ましい。 |
データベース登録の 動機 |
タンクローリー充填中の火災事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、不注意、注意・用心不足、作業者不注意、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不足、定常操作、誤操作、無意識下で誤ったバルブの開閉、二次災害、損壊、火災、身体的被害、負傷、2名負傷、組織の損失、経済的損失、直接損害額500万円
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情報源 |
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(2000)
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負傷者数 |
2 |
物的被害 |
危険物移送配管8本等焼損。フォークリフト1台及び充填所の一部焼損。建物2棟の外壁等焼損。 |
被害金額 |
457万円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料) |
マルチメディアファイル |
図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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