失敗事例

事例名称 エチレン製造装置におけるデコーキング用空気配管の腐食による開孔でナフサの少量漏洩
代表図
事例発生日付 1986年09月03日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 化学工場
事例概要 エチレン製造装置ナフサ分解炉のデコーキング用空気配管が平常運転中に開孔し、ナフサが漏洩した。開孔の原因は、長期使用のため配管の内面、外面が腐食を受けて減肉していたことによる。また、設計仕様のSTPG38(肉厚4.5mm)配管ではなく、肉薄のSGP(肉厚3.2mm)配管が誤用されていたため開孔の時期が早くなった。
事象 エチレン製造装置のナフサ分解炉のデコーキング用空気配管が開孔し、ナフサが漏洩した。図2参照
プロセス 製造
単位工程 反応
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
反応 分解
物質 ナフサ(naphtha)
事故の種類 漏洩
経過 1986年8月12日,13日 ナフサ分解炉のナフサ配管(1・1/2インチ)のデコーキング行い、再稼働した。以後、順調に稼働していた。
9月3日11:00頃 保全係員が、デコーキング用空気配管からナフサが霧状に漏洩しているのを発見した。直ちに計器室に連絡した。
 製造係員が現場に急行して漏洩の状況を確認した。その結果、漏洩箇所が炉に近いため、直ちにナフサ配管の弁を閉止してナフサの供給を停止するとともに、同炉の緊急停止作業を行った。
デコーキング: 分解管内に生成したカーボンの除去(デコーキング)を行うため、分解管内部にスチームと空気を注入して燃焼・除去を行う作業。
原因 1.デコーキング用空気配管からナフサが漏洩したのは、この配管が開孔したためであり、バルブの取付位置の関係からナフサが溜まっていて漏洩した。
2.デコーキング用空気配管が開孔した原因は、調査の結果、次のように推定された。
 (a)配管の内部が全面腐食を受けて、約1~2.5mm減肉していた。これは、配管内に水蒸気の凝縮液が滞留し、それにナフサ中の硫黄分が作用したためと推定される。
 (b)配管の外面にも腐食が認められ、部分的に0.3~0.5mm程度の減肉があった。
 (c)配管は、STPG38(肉厚4.5mm)の設計仕様に対し、SGP(肉厚3.2mm)が誤用されていた。
対処 1.ナフサ分解炉の緊急停止
2.漏洩箇所に防火シートを被せて、ナフサの飛散防止実施
3.ナフサの供給停止後、漏洩箇所に対しバンド巻きによる応急処置実施
対策 1.当該炉のデコーキング用空気配管については、炉を再稼働する前に、全て交換した。
2.当該炉を除く、他のナフサ分解炉全基のデコーキング用空気配管について、肉厚測定を実施するとともに、再度防食塗装を行った。
3.エチレン製造装置のユーティリティ配管がプロセスに接続されている箇所の検査を行い、安全性を確認した。
知識化 1.ユーティリティ配管がプロセスに接続されている箇所であって、常時ユーティリティ流体が流れていないところは、プロセス流体による腐食のおそれがあるので、定期的に点検する必要がある。
2.配管工事に当たっては、配管材料の誤用を防止するため、配管材料の識別表示を徹底する。また、配管の検査時には、配管材料の誤用の有無についても確認する必要がある。
背景 1.長期使用をしている小口径配管の内外面の腐食が原因であり、腐食を起こした要因は、設備管理の不備と考えられる。発災時期を考えると、未だ事例が少なかった頃でもあり、やむを得ない部分もあるが、外面腐食は日常点検で発見可能であろう。内面も使用流体が水分飽和の空気であるから、凝縮水による腐食を考慮できたと思われる。やはり設備管理が問題であろう。
2.配管材料が設計とは異なったことは、管理の点では問題であるが、耐圧面では間違った選択ではない。肉厚の薄い分だけ開孔を早めたのと、品質面で劣るのでプラント内では使うべきではない。
よもやま話 ☆ デコーキング用空気は大気を圧縮しただけの湿った空気を使っている。条件次第で凝縮し大気中の二酸化炭素、二酸化硫黄の影響で酸性になる。ナフサ中の硫黄の存在もあり、腐食雰囲気にあったのであろう。トラブルまでは気が付かないもののようだ。
データベース登録の
動機
配管腐食による漏洩事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、使用、保守・修理、長期に渡り点検なし、製作、ハード製作、配管材料ミス、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、漏洩
情報源 高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1993)、p.198-199
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.109-112
物的被害 ナフサ2~3リットル
マルチメディアファイル 図2.配管図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)