事例名称 |
浮き屋根式ナフサタンクのポンツーンの浸水と屋根の雨水滞留による浮き屋根の沈下 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1987年10月17日 |
事例発生地 |
岡山県 倉敷市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
1時間30mmを超える大雨の中で、浮き屋根式タンクの浮き屋根がナフサ中に沈没した。浮き屋根沈没の原因は、ルーフドレンサンプ口がゴミにより閉塞して浮き屋根上に大量の雨水が滞留したこと、及びポンツーンのノズルのキャップを閉め忘れていたため、ポンツーンに浸水し異常な荷重がかかったことである。間接原因として、日常点検及び異常気象時の点検基準が不明確であったことがある。 |
事象 |
暴風雨時に、浮き屋根式のナフサタンクの浮き屋根が滞留した雨水によりナフサ中に沈没した。 |
プロセス |
貯蔵(液体) |
物質 |
ナフサ(naphtha) |
事故の種類 |
漏洩 |
経過 |
1987年10月16日19:40 暴風雨波浪洪水警報が発令された。 23:30 降雨量は36mm/時であった。 10月17日00:00 降雨量は38mm/時であった。 05:00 暴風雨波浪洪水警報が解除された。 12:00頃 パトロール員がナフサ臭を感知したが、タンクの異常は発見できなかった。 13:00頃 浮き屋根の異常を発見した。タンク北側からナフサがルーフ上へ溢流していた。 13:15 課長代理→製造部長→保安環境部長へと連絡した。 13:30 工場防災隊の出動指令があった。 13:50 当該タンクのナフサの移送を開始した。 14:05 公設消防へ連絡した。 14:45 「ブン」という異音が発生した。側板とガイドポールが変形した。 19:30 公設消防3点セットが待機した。 18日00:35 タンク上部に二酸化炭素の導入を開始した。 21日16:10 二酸化炭素シールからエアーフォームの注入に切替えた。 28日 タンク内のナフサ、水抜き完了した。工場の防災体制を解除した。 |
原因 |
10月16日朝から17日未明にかけて、台風19号の影響により、記録的な降雨(38mm/時)があった。その際、当該浮き屋根式タンクの雨水集排水(ルーフドレンサンプ)口に設置された多孔板がゴミにより閉塞し、ルーフ(浮き屋根)上に大量の雨水が滞留した。さらに、ポンツーン(浮き箱)の気密テスト用ノズル(内径13mm)のキャップを閉め忘れていたため、北側の2個のポンツーンに浸水し、ポンツーンに異常な荷重がかかり座屈し、ルーフがナフサ中に沈没した。図2参照 浮き屋根式タンク: floating roof tank の訳語でFRTタンクと略す。常圧タンクの屋根部の形式の一つである。液面上に”お鍋の浮き蓋”のように屋根を浮かせる。原油やガソリンなどの軽質分を含む液に使われる。タンクに気相部が無いため、軽質分を蒸発させることがない。浮き屋根を浮かせるための浮き箱、屋根に溜まった雨水の排泄など構造が複雑になる。浮き屋根をルーフということもある。 ルーフドレンサンプ: 浮き屋根の上に溜まった雨水を排泄する配管等の設備を言う。排水する雨水をルーフドレンという。 ポンツーン: 浮き屋根を浮かせている金属の箱をいう。浮き袋のようなもので、複数個がタンク壁に近くに配置される。 |
対処 |
1.タンク上部に二酸化炭素を導入、その後エアーフォームに切替 2.タンク内のナフサ・水抜き実施、タンク内換気・掃除実施 |
対策 |
1.ルーフドレンサンプの改善 今回の事故の第1次的原因は浮き屋根のルーフドレンサンプ口(パンチングプレート)の目詰まりに起因したことから、エキスパンドメタルに変更することにより、ゴミによる閉塞を生じにくい構造とする。これにより開孔面積の増加などが期待できる。 2.ポンツーンの雨水浸入防止 ポンツーン気密テスト用ノズルから雨水が浸入したことが事故の要因の1つであった。今後気密テストはポンツーンマンホールを使用する方法に改めテスト用ノズルを撤去する。 3.ルーフドレン設備の機能向上 浮き屋根をシングルデッキ式に更新し、ルーフドレン設備についてセンター集排水方式を採用する。これに伴い、非常排水設備は浮き屋根の強度を考慮のうえ、口径、個数、位置を見直しする。 4.点検作業基準の見直し 日常点検 a.浮き屋根の異常の有無 1回/週 b.サンプボックス内の堆積物の点検掃除 1回/月 c.浮き屋根上の掃除の強化 1回/年を1回/3ヶ月とする 5.異常気象時の点検 工場として新たに「気象予警報発令時の措置基準」を制定し、この基準に基づき各課がそれぞれ決めた項目に従って点検を行う。 6.運転管理面の改善対策 |
知識化 |
雨水の浸入で異常が生じる状態のところに、暴風雨が来たため事故となった。平常時では気づかない雨水の浸入対策も点検しておくことと、特に暴風雨警報発令とともにそれに応じた点検を実施すれば事故の未然防止ができた。 設備類の構造原理を理解して、それに応じた保守・管理を行うのが失敗をなくす第一歩である。 |
背景 |
1.管理の不十分によるものと思われる。日常点検及び異常気象時の点検基準が不明確であったか、設定されてなかったかの何れかであろう。浮き袋であるポンツーンのベントノズルを開けたままだったことと、フローティングルーフ上面の清掃が不十分だったことの何れもが、管理状況を示している。 2.浮き屋根式タンクの屋根の原理から考えれば、作業基準以前の問題であろう。 |
よもやま話 |
日常管理さえしっかりしていれば、対策の1.~3.は本来不要なはずだ。3項目ともこの改善以前のものが多数採用され、問題になっているとは思えない。全国の実態はどうなのであろうか。 後年、地震の影響でナフサタンクの浮き屋根が沈没した事故が起こった。このときはナフサを抜き出すことができずにタンク全面火災になった。気象条件など異なるため何ともいえないが、火災事故にならなかっただけ良かったのであろう。 |
データベース登録の 動機 |
日常点検の手抜きから起こった事故の例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、不注意、理解不足、リスク認識不足、不良行為、規則違反、安全規則違反、破損、大規模破損、沈没、組織の損失、経済的損失、直接損害額2800万円
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情報源 |
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1988)、p.138-141
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.210-212
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物的被害 |
浮屋根沈没 |
被害金額 |
2800万円(石油精製及び石油化学装置事故事例集) |
マルチメディアファイル |
図2.事故発生要因図
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備考 |
WLP関連教材 ・プラント機器と安全-設備管理/静止機器の安全 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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