事例名称 |
紙に塗工液を塗る工程において紙が液中に入り過剰に浸み込んだトルエンの爆発・火災 |
代表図 |
|
事例発生日付 |
1989年08月10日 |
事例発生地 |
愛知県 春日井市 |
事例発生場所 |
製紙工場 |
事例概要 |
1989年8月10日 製紙工場で爆発、火災事故が起こった。紙にトルエンを主体とする塗工液を塗布し、乾燥させて塗工紙を作る工場で、巻き取り不調のため塗工液に浸かった紙が乾燥炉に入ったため、乾燥炉内の可燃性ガス濃度が上がり、そこに静電気火花が発生し爆発が発生した。施設は、1972年設置のものであり、保安装置が十分でなかった。 |
事象 |
塗工紙製造機の通常運転中の事故である。塗工液(トルエンを含む危険物第四類第1石油類)を塗布された「塗工紙」を乾燥する熱風乾燥炉内で爆発が起こった。その直後に電気ヒーター部付近の塗工紙から出火した。工場は、半壊し、機械の一部も破壊された。 |
プロセス |
使用 |
単位工程フロー |
図2.機器概要図
|
物質 |
トルエン(toluene)、図3 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
1989年8月10日02:35頃 巻取機の不調により一旦機械を停止し点検した。 異常がないことを確認し再稼働した。 通常、ラインの紙は巻取機により引張られた状態で送られているが、爆発の30秒程前に再び不調を起こした。そのためラインスピードを巻取操作盤で200m/分→100m/分→50m/分まで徐々に落とした。 04:18 電気ヒーターのスイッチを切るため中央操作盤に行こうとした時爆発が起こった。 さらに、爆発により機械が停止したため電気ヒーター(表面温度約250℃)が塗工紙の同一箇所を加熱し続け、塗工紙が着火した。 04:28 鎮火した。 |
原因 |
巻取機の不調により一旦機械を停止し、点検後異常がないことを確認し再稼働した。その後、巻き取り機不調のため巻き取り速度を調整中に、たるみ現象により紙が塗工液の中に直接つかり、そのまま乾燥炉に送られ爆発下限界以上の濃度に達したトルエン蒸気に静電気火花が引火し爆発に至った。さらに、爆発により機械が停止したため電気ヒーター(表面温度約250℃)が塗工紙の同一箇所を加熱し続け、塗工紙が着火した。 通常、紙はロール間を引っ張られて送られている間に、ロールに付着して運ばれた塗工液が塗られる。 1.巻き取り不調により、紙の弛み現象を起こし、塗工液槽に浸ったことに気がつかなかった。紙に大量に付着したトルエンが高温の乾燥炉で爆発・火災を起こした。 2.設備は1972年のものであり、保安装置が十分でなかったことも原因の背景にある。 |
対策 |
1.紙巻取機の異常覚知装置の設置 2.乾燥炉内の濃度測定個所の増設 3.静電気除去装置の有効設置 4.点検の確実な実施 |
知識化 |
古い設備では特に保安装置の設置検討が必要であろう。 |
背景 |
非常に引火性の高いトルエンを扱っているという意識の欠如、教育の不十分さが真の要因であろう。 |
データベース登録の 動機 |
保安設備が不十分な旧型設備による爆発事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
|
価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、不注意、注意・用心不足、作業員不注意、計画・設計、計画不良、設計不良、定常操作、手順不遵守、確認不足、不良現象、機械現象、蛇行、不良現象、化学現象、蒸発・可燃性混合気、二次災害、損壊、爆発・火災、組織の損失、経済的損失、直接損害額2億円
|
|
情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例-平成元年(1990)、p.34、292-293
|
物的被害 |
工場半壊(屋根崩壊).乾燥装置(炉,ダクト,ポンプ等)破壊 |
被害金額 |
2億円(危険物に係る事故事例) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
|
分野 |
化学物質・プラント
|
データ作成者 |
土橋 律 (東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
|