事例名称 |
長期保管をした酢酸ビニルの自然重合による発火、火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1971年08月03日 |
事例発生地 |
岐阜県 大垣市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
1971年8月 合成樹脂製造装置で重合禁止剤を除去した酢酸ビニルモノマーを2ヶ月放置したため、自然重合が進行し、保管容器は破裂し火災になった。タンクの温度点検が不十分のため、事前に危険な状況を捉えられなかった。反応のために仕込まれる原料は、反応が容易に進むような状態に調整されたりし、反応性が通常時とは異なることが多い。 |
事象 |
酢酸ビニルを原料とする各種合成樹脂製造装置で、酢酸ビニルモノマーを計量槽タンク(1000L、アルミニウム製)に保管していた。2ヶ月経過後、タンクのゲージ部から酢酸ビニルが噴出し、発火、炎上した。さらに、タンクが破裂した。消火に当たろうとした2名が被災した。図2参照。 |
プロセス |
貯蔵(液体) |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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物質 |
酢酸ビニル(vinyl acetate)、図3 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1. 酢酸ビニルモノマー約940Lを計量槽に保管した。 2. 約2ヶ月後、重合物が計量槽から溢出して静電気により着火した。 3. 加熱加圧状態となりタンクが破裂し、消火にあたろうとした2名が被災した。 |
原因 |
1.重合禁止剤を除去した酢酸ビニルモノマーを保管したため自然重合が進行し、蓄熱によって急激な重合反応を起こした。 2.タンクの温度点検が不十分だったため、タンクの温度上昇を事前に捉えられなかった。 |
対処 |
消火作業を行った。 |
対策 |
1.貯蔵中や移送中のモノマーには重合抑制剤を添加するとともに冷暗所で保管する。 2.重合を促進する不純物の混入防止を行う。 3.タンクへの温度計や冷却用散水設備の設置する。 4.適切な脱圧装置や安全弁の設置を行い、十分な保守点検を行う。 5.モノマー中の重合抑制剤やポリマーの定期的な分析を行う。 6.保管を計画的に行い長期保管を避ける。 |
知識化 |
1.自己重合性などの反応危険がある物質を保管する場合は重合禁止剤を添加するなどの安全対策が必要である。反応に使用する場合には重合禁止剤などの除去が必要になることもあるが、その場合も使用する直前にすべきである。 2.反応危険がある物質を多量に長期保管することはさけるべきである。 |
背景 |
酢酸ビニルを取り扱っている工場で、なぜ、重合禁止剤が入っていない酢酸ビニルを2ヶ月も放置したのであろうか。酢酸ビニルの自然重合性は企業・工場として当然熟知していただろう。計量槽という本来保管設備でないところで保管していたこと、温度点検の不十分と合わせ考えると、保管したことを忘れていたのではないだろうか。管理側の問題が事故の背景にあるであろう。 |
よもやま話 |
☆ 不可解な事故である。保管したのが計量槽である。計量槽というなら、次の(例えば反応)ステップに移動するのが普通であろう。しかも温度管理もしないで、1000Lの容器に973Lも入れている。忘れたとしか、思えない。 |
データベース登録の 動機 |
重合禁止剤を除いて長期保管した事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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組織運営不良、管理不良、管理の緩み、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、無知、知識不足、勉学不足、計画・設計、計画不良、保管計画不良、使用、輸送・貯蔵、保管方法悪し、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、火災・破裂、身体的被害、負傷、2名負傷、組織の損失、経済的損失、タンク破壊
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情報源 |
田村昌三,若倉正英、反応危険 -事故事例と解析-、施策研究センター(1995)、p.20
労働省安全衛生部安全課、バッチプロセスの安全、中央労働災害防止協会(1987)、p.38-39
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負傷者数 |
2 |
物的被害 |
タンク大破 |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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