事例名称 |
接触水添脱硫装置における21年間使用した反応塔の気密試験中の破裂 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1980年04月01日 |
事例発生地 |
山口県 徳山市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
接触水添脱硫装置の定期修理後の気密テストで反応器を規定圧まで昇圧したところ、反応器が破裂した。反応器母材あるいは最初に使用された溶接棒と新設時の手直しで使用された溶接棒との適合性が悪く、亀裂を生じそれが発展したことが原因とされた。反応塔は21年前から使用され、約10年前から目視検査だけだった。発災直前の定期検査でも見える範囲での部分検査が行われたが、異常は発見できなかった。 |
事象 |
製油所で使用開始以来20年以上経過した接触水素化脱硫装置の反応塔の破裂があった。気密試験中に突然破裂した。定期修理時に付加工事を行ったが、その影響とはされていない。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
設備保全 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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物質 |
窒素(nitrogen)、図4 |
事故の種類 |
破裂 |
経過 |
1959年に新設された。その後1971年まで毎年の定期修理で目視検査、 浸透探傷試験、磁粉探傷試験、スンプ試験、定点肉厚測定が行われていた。 1971年には触媒を抜出して、溶接線全線の浸透探傷試験が行われたが、その後は目視検査だけだった。 1980年3月の定期修理では、反応塔内部の(見える範囲の)目視検査、上部および下部ノズルリング溝の浸透探傷試験、定点肉厚測定が行われ、特に異常は発見されなかった。 1980年3月18日~27日、定期修理において、反応塔の補修工事を行った。 4月1日10:30頃 液体窒素ローリーから窒素を張込み、気密試験を開始した。 23:44 分離系の圧力が5.2MPaGに達したので分離系の気密試験を終了した。 続いて、分離系と反応系を切り離し、反応系のみ昇圧を続けた。 23:55 反応系の圧力が規定の5.5MPaGに達したので張込みを終えようとした時に反応塔が破裂した。 半径約650m内の民家約95軒で窓ガラスなどに被害が発生した。 |
原因 |
以下の要因で破壊強度が低下していた。 1.この反応器と同様の高圧、高温の水素を使った水添脱硫装置では、SUS316L(オーステナイト系)のクラッド鋼が使用されていた。この反応塔で初めてSUS405フェライト系クラッド鋼が採用された。この反応塔の製作は1959年で、それ以前のSUS316Lのクラッド鋼では、多数の応力腐食割れが生じていたのでその対策のためSUS405クラッド鋼が採用された。この製作時検査で一部に溶接部欠陥が判明した。欠陥補修はグラインダーで欠陥部を除去後に、最初に規定した溶接棒とは別種の溶接棒で行われたが、特に不適合の溶接棒ではなかった。溶接時の融合不良からではなく、後発的に母材に割れが発生し、長期間の使用条件あるいは定修時の温度・圧力の変動などで、成長していた。 2.母材は規格に適合はしていたが、一部シャルピー衝撃値の低いものが使用されていた。 1971年の定期修理時の内部開放検査までは溶接線全線について浸透探傷試験を行っていたが、その後の事故発生までの9年間は検査箇所を一部のみとしたため、亀裂が発見できなかった。 |
対策 |
1.過酷な条件で使用する装置には、その条件に適切な材料と溶接法を採用する。 2.使用期間が長いほど欠陥は成長するであろう。検査方法の検討が必要であろう。 |
知識化 |
新材料を使用した装置では、装置の追跡調査や最新情報の収集を怠らない。 |
背景 |
高圧水素使用の反応器などの材料は、何時も事故データの追跡により使用可能範囲が変わる厄介な性格を持っている。そのため新規材料では、十分な検討を行ったとは言え、本当に長期で多様な使用条件に全て合格するとは限らない。常に腐食や割れのフォローが必要であるが、12年経過で検査を簡便化したことが基本要因として挙げられる。とは言え、大量の触媒を全量抜出して、また、再充填する時間と金額から毎年の実施は難しいが、数年置きには十分な検査が必要だったのであろう。新材料における短所の解明不足ということも言えるが、現実には酷な要求であろう。未知の分野で、使用時間が長いから問題なしと安心した判断の問題であろう。 |
よもやま話 |
☆ 新規材料使用の危険性 |
データベース登録の 動機 |
高圧水素を使用した反応器の使用材料の危険性 |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、誤った理解、欠陥の進行を予見できず、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、最新情報の収集に手抜かり、計画・設計、計画不良、設計不良、使用、保守・修理、点検せず、破損、大規模破損、破裂、組織の損失、経済的損失、社会の被害、社会機能不全、近隣民家95棟破損
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情報源 |
化学工業における爆発・火災防止対策指針策定委員会監修,千葉労働基準局監修、化学工業における爆発・火災防止のためのガイドライン(1996)、p.97-99、p.98
高圧ガス保安協会、I石油(株)T製油所第二接触水添脱硫装置反応塔事故調査報告書(1980)
高圧ガス保安協会、徳山・新南陽及び岩国・大竹コンビナート保安調査報告書(1982)、p.54-55
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物的被害 |
反応塔破片により反応塔周辺の装置・建物(架台や鏡板が破壊)に被害.工場周辺(反応塔より約650m)の民家約95軒の窓ガラス,建具の折損・外れ,壁タイルのひび割れ等. |
マルチメディアファイル |
図2.破片飛散状況図
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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