失敗事例

事例名称 不適切な自動制御による屋上タンクからの重油の噴出と運河への流出
代表図
事例発生日付 1993年02月08日
事例発生地 神奈川県 川崎市
事例発生場所 インク工場
事例概要 ボイラー不調のため、サービスタンクからボイラーに燃料を供給する燃料油循環ポンプを停止したところ、サービスタンクの液面検知計と燃料油循環ポンプの電源が同一のため油面検知ができなくなった。一方、サービスタンクへの燃料の供給ポンプは別電源のため燃料を送り続け、ついにはオーバーフローした。中途半端な自動制御が事故を起こした。
事象 インク工場において、不適切な自動制御により屋上重油タンクの通気管先端から重油が噴出し、雨樋と雨水配管を経て運河に流出した。
プロセス 使用
物質 重油(fuel oil)
事故の種類 漏洩
経過 1993年2月8日08:40頃 手順に従い各装置の電源を入れたが、ボイラーへの燃料油供給をサービスタンクから行う循環ポンプ(図3には示されていない)が作動しなかった。
10:00頃 出社した担当者が操作盤などを点検したところ、循環ポンプのマグネットスイッチに異常が見つかった。
10:30頃 スイッチを交換するため、操作盤のスイッチを切ったが、念のためボイラーの主電源も切った。
13:05 海上に油膜が広がっているとの通報が海上保安署にあった。
13:15 海上保安署が油の処理を開始した。同時に流出元の捜査を開始した。
13:30 事業所において、別系統の不調装置でエアー通過試験を行い屋上に状況を確認しようと上がったところ、屋上タンクの通気管先端から液体が流出していた。直ちにエアーを止めた。
14:00 再度屋上に上がったところ流出が続いていたので、すべての油ポンプを停止した。
14:30 雨水枡に油吸着剤を投入し、残留油を回収した。
15:50 消防職員が事業所に到着したところ、残留油の回収は完了しており、海面の油膜は除去されていた。
漏洩量は約2500Lでうち約1600Lが海上に流出した。
原因 1.お互いに関連するポンプ類の電源系統と、関連する制御・警報系の電源系統が不合理であったために起こった。ボイラーの燃料油循環ポンプのマグネットスイッチを交換する際に主電源を切った結果、燃料油タンク内の液面自動制御システムの電源が切れて、液面レベルのセンサーが働かなくなった。しかし、燃料油タンクに燃料を供給する地下タンクの付属ポンプ(図3のA重油ポンプ)の電源は入ったままであり、計器盤の自己保持回路が働いて、ポンプは屋上の燃料油タンクに送油し続け、ついには通気管から噴出した。
工事の施工時、業者が液面自動制御系の考察をせず、運転信号の発信回路を一体設備の制御盤でなく、オーダーメードの制御盤の中に組み込んでいた。
2.従業員は、主電源を切った際に地下タンク付属ポンプ、電磁弁、アラーム鳴動、の制御がなされなくなることを知らなかった。
対処 海上保安署が流出油を処理した。雨水枡に油吸着剤を投入し、新たな流出を防止した。残留油を回収した。
対策 1.ボイラー主電源を切った際に、供給ポンプが停止し電磁弁が閉になるように回路を変更する。
2.ボイラー主電源を入れた際は、一度液面が液面警報の低位レベル以下になってから供給を開始するように回路を変更する。
3.ポンプの吐出圧を下げて物理的に噴出しないように改善する。
4.屋上タンクから地下タンクへのオーバーフロー配管を設置する。
図2,3参照
知識化 1.自動制御システムはフェールセーフが不完全であると、安全の確保をその機能に頼っていることが多い上に、さらに通常時には操作しない機器故に対処に苦慮する。
2.警報は自動制御システムの一部であるが、その目的からして制御系が停止しても生きている必要がある。警報系の電源は制御系から独立させる。
背景 安全設備を業者任せにして、運転会社が検討していなかった。装置の安全の維持は運転会社の責務であり、それを確保するための計装システムは、設計は業者に委託するにせよ、運転会社自身で責任をもって決定すべきであろう。自分たちが運転している装置の、計装システムを運転員に教育しなかった、あるいは運転員が勉強しなかったことがそれに次ぐ要因であろう。
よもやま話 ☆ 計装システムが故障した時を想定した検討がなされていなかった可能性がある。この場合、サービスタンクから燃料主タンクへのオーバーフロー戻し配管が設置されていれば、問題は起こらなかった。集合住宅の配水槽にでも取り付けられている簡単な発想のものです。
データベース登録の
動機
計装の電源系統に無関心で設計して、事故の原因になった例
シナリオ
主シナリオ 調査・検討の不足、仮想演習不足、想像力不足、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、設計不良、機能不全、システム不良、運転システム不良、二次災害、損壊、漏洩、二次災害、環境破壊、海上汚染
情報源 高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧(1995)、p.260-262
川崎市消防局予防部保安課、川崎市コンビナート安全対策委員会資料(1993)
被害金額 約75000円(川崎市コンビナート安全対策委員会資料)
社会への影響 約1600L運河へ流出
マルチメディアファイル 図2.計装改良フロー図
図3.サービスタンク液面制御系統図
備考 油種は異なるが、同一事業者が全く同種の事故を起こしている。
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)