事例名称 |
高速増殖炉の冷却系配管からの冷却剤の溶融ナトリウムの漏洩による火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1995年12月08日 |
事例発生地 |
福井県 敦賀市 |
事例発生場所 |
原子力発電所 |
事例概要 |
1995年12月8日、高速増殖原型炉「もんじゅ」において溶融ナトリウムが漏洩し火災を起こす事故があった。溶融ナトリウムの循環系で配管に挿入した温度計の保護管が対称渦による流力振動による高サイクル疲労により折れ、ナトリウムが漏れた。漏れたナトリウムが空気中で燃えた。流れに直角に挿入した保護管の強度設計に最新の基準が反映されておらず、設計上不十分な点があった。 |
事象 |
高速増殖原型炉「もんじゅ」で2次冷却系配管から冷却剤の溶融ナトリウムが漏洩し、空気と反応し発煙した。放射能漏れはなかった。図2参照 |
プロセス |
使用 |
単位工程フロー |
図3.単位工程フロー
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物質 |
ナトリウム(sodium)、図4 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1995年12月8日19:47 高速増殖炉「もんじゅ」の試運転中、火災検知器が作動した。 19:46 現場で煙を確認した。 20:00 小規模漏洩と判断し通常停止操作を開始した。 20:50 火災検知器の発報が急増し白煙の増加を確認した。 21:50 緊急停止操作(手動トリップ)を行い、原子炉を緊急停止した。 22:55 ナトリウムの抜き取り作業を開始した。 9日00:15 ナトリウムの抜き取り作業を完了した。 |
原因 |
配管内を流れる溶融ナトリウムにより温度計保護管部下流に対称渦が発生し、これによる流体力で温度計保護管が振動し、高サイクル疲労により破断した。当該温度計保護管に挿入された熱電対が曲がって挿入されていたことが、他の保護管との個体差となって、流体振動が顕著に発生し高サイクル疲労に至った。 |
対処 |
通常停止。緊急停止。ナトリウムの抜き取り。 |
対策 |
1.設備、手順書、教育訓練について安全総点検を実施した。 2.ナトリウム技術、発電プラント技術及び品質保証など幅広い分野の専門家の助言を受ける。 |
知識化 |
1.原子炉という非常に高度の危険性を有するところでは、一般的な安全対策より高度な検討が求められている。そこでの検討不足が起こらないよう努力する必要がある。 2.特殊材料の潜在危険性の評価が不足していた。 |
背景 |
溶融ナトリウムを使用する機器に対する認識が十分でなく、設計、製作段階での管理に問題点があった。温度計保護管の設計ではカルマン渦による共振は考慮したが、対称渦による流力振動は考慮していなかった。既に米国機械学会では流力振動に対する新知見が反映されて、設計基準が追加されていたが反映されなかった。中小規模でのナトリウム漏洩・燃焼挙動が構造物の健全性に与える影響の検討と評価が不十分であった。 |
よもやま話 |
☆ 特殊材料を使用する際には利点だけでなく欠点についても事前の十分な検討と試験が必要である。また、採用後には、異常が現れたり、技術が向上したりするごとに対応策を更新する必要がある。 |
データベース登録の 動機 |
特殊材料の潜在危険性評価不足がもたらした事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、情報連絡不足、調査・検討の不足、仮想演習不足、事故時の影響検討、計画・設計、計画不良、設計不良、不良現象、機械現象、振動、二次災害、損壊、漏洩・火災、組織の損失、社会的損失、高速増殖炉の研究中断
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例-平成7年(1996)、p.29、310-312
動力炉・核燃料開発事業団、高速増殖炉もんじゅ2次主冷却系ナトリウム漏えい事故について原因調査結果のまとめ(1997)
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物的被害 |
熱電対温度計,予熱ヒーター焼損.配管外装板,換気ダクト,床ライナー,グレーチング及びケーブル等の一部焼損.金属ナトリウム約700kg漏洩. |
被害金額 |
1063万円(危険物に係る事故事例) |
マルチメディアファイル |
図2.ナトリウムの漏洩燃焼挙動CG図
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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