失敗事例

事例名称 放射性廃棄物のアスファルト固化処理施設における異常反応による火災と爆発
代表図
事例発生日付 1997年03月11日
事例発生地 茨城県 東海村
事例発生場所 核燃料再処理工場
事例概要 1997年3月11日、旧動燃の低レベルの放射能廃棄物をアスファルトに閉じこめる施設で、時間あたりの供給量を下げる実験中にアスファルト固化体の温度が上がり、放冷中に酸化反応を起こし、発火した。さらにその消火が不十分だったため、アスファルトが燻り、軽質ガスを放出し爆発に至った。
事象 放射性廃棄物のアスファルト固化処理施設において、火災と、その後始末の悪さから爆発が起こった。低レベル放射性廃棄物の処理廃液をアスファルトで固化してドラム缶に充填中、異常な化学反応が生じてドラム缶が火災となった。ドラム缶はまだ充填後の室内仮置き場に置かれていた。水噴霧により消火されたが、その消火確認が不十分であったため、約10時間後に爆発が起こり、放射能が漏洩した。火災時と爆発時に作業員が被曝した。
アスファルトと混練するする前の処理方法を図3に示す。
プロセス 使用
単位工程フロー 図3.単位工程フロー
物質 アスファルト(asphalt)
事故の種類 爆発・火災、健康被害
経過 1997年3月11日10:06頃 放射性廃棄物のアスファルト固化処理施設において、ドラム缶が火災となった。
10:12頃 作業員は水噴霧を約1分間行い、消火したと連絡した。建屋内の放射線レベルやダストモニタが上昇し、作業員は退避した。
10:20~10:30頃 換気装置のフィルターが目詰まりし出口ダンパーが閉まった。手動で起動を試みるもファンが起動するのみで排気機能が停止した。
20:02頃 室内に充満した可燃性ガスが爆発した。
 建屋が破損して放射能が漏洩した。
20:40頃から敷地内のモニタリング地点の1箇所で空間放射線量率が一時的に上昇したが、21時以降には通常の変動の範囲内に戻った。
原因 1.火災の原因:
 アスファルト固化体の放冷中、ドラム缶内での遅い化学反応により蓄熱が進行し、アスファルト固化体の温度が局所的に上昇、硝酸塩/亜硝酸塩とアスファルトの反応が急激に進んだためと推定される。遅い反応の要因は、放冷開始温度が高めであったことなどによる。放冷開始温度が高くなったのは、アスファルト供給量を20%減らしたことにより、アスファルトと廃棄物を混練するエクストルーダーの特性で温度が上がった。エクストルーダの外観を図2に示す。
2.爆発の原因:
 消火が不十分であったため、アスファルト固化体から可燃性物質が放出され、火災により換気機能が停止していたので可燃性物質が充填室内と隣接室内に充満し、空気と混合してアスファルト固化体の発火により着火したと推定される。
対策 エクストルーダを用いたアスファルト固化処理法は発熱反応を起こしやすい系であり、また、廃液やアスファルトがいずれも常に同一組成とは限らないので、発熱反応の制御が極めて難しく、適切な方法ではない。したがって、他の方法により処理を実施するほうが望ましい。
知識化 1.原子力の安全確保のためには、主たる要素技術の放射線の漏洩の視点のみでなく化学安全を含めた全要素技術に関する安全への配慮が必要である。
2.放射性物質ではなくとも化学物質に起因する爆発火災などによっても放射線の漏洩などの大事故となる可能性がある。
3.種々の化学物質を用いる際には、それら化学物質の潜在危険性についての知識を得て、適切な取扱いをすることが望ましい。
4.安全の視点には、様々な専門分野からの視点が必要である。
背景 1.アスファルト固化処理システムは、酸化性物質と可燃性物質とを高温下で混合しており、放射線の漏洩防止という観点からは適切であるが、化学安全という視点からは潜在危険性が大きい。
2.使用する機械の特性を調査検討することもなく運転条件を変更した。エクストルーダは定容量式の特殊な機械で安易に供給量の変更はすべきでなかった。エクストルーダからの押し出し温度が上昇しているのに何らのアクションも取らなかった。
3.シャワーでの消火時間が8分以上と規定されているのに1分で終了させ、鎮火の確認もおざなりだった。実際の作業も、運転担当に職員はいないで、全部下請け任せだったなど管理面でも問題があり、当時の動燃の体質が最大の原因ではないかと推測する。
よもやま話 ☆ 事故は十分に考えたところや、中心部では起こりにくく、考えなかったところ、周辺部で起こると言われる。これはその典型例であろうか。
データベース登録の
動機
小さな運転条件の変更が大事故になった例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、無知、知識不足、思い上がり、計画・設計、計画不良、運転計画の監視項目不良、不良行為、規則違反、安全規則違反、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、火災・爆発、身体的被害、負傷、組織の損失、社会的損失、組織統合、実験停止、組織の損失、経済的損失
情報源 動力炉・核燃料開発事業団、「アスファルト固化処理施設火災・爆発事故」の概要(1997)
東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故調査委員会、動力炉・核燃料開発事業団東海再処理施設アスファルト固化処理施設における火災爆発事故について(1997)
茨城県生活環境部原子力安全対策課、アスファルト固化処理施設火災爆発事故に係る調査結果について(1998)
動力炉・核燃料開発事業団、「火災爆発の原因の検討について」(1997)
負傷者数 37
物的被害 アスファルト充填室(R152)の破損状況が著しく,シールディングウォール,リムーバブルルーフ及び扉が吹き飛ばされる.保守エアロック室(A235)の損傷が激しく,設備類,窓,扉,壁等破損.換気系ダクトに連結部の外れや変形,フィルタ損傷.
社会への影響 火災発生から約30分後に退避指示,全員退避.第一付属排気筒,E施設やZ施設の排気口の排気ダストモニタより放射能測定データあり.またアスファルト固化処理施設周辺及び大洗地区で採取した大気浮遊じんの放射能測定データあり.
マルチメディアファイル 図2.エクストルーダ図
分野 化学物質・プラント
データ作成者 板垣 晴彦 (独立行政法人産業安全研究所 化学安全研究グループ)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)