事例名称 |
ベンゼンタンクでの試料採取中の爆発・火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1972年01月08日 |
事例発生地 |
神奈川県 横浜市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
窒素シールなしでは爆発範囲に入る温度条件下で、静電気帯電防止対策なしに、タンク上部から試料採取を行った。静電気によって1万kLタンクの全面タンク火災が起こった。鎮火まで約15時間を要した。 |
事象 |
ベンゼンの1万kLタンクで、タンク天井の試料採取口からサンプリング中にタンクが全面火災になった。火災は15時間続いた。 試料採取口:タンク内の液サンプルを取るためにタンク天井に設けた蓋付きのノズル。ゲージハッチ(gage hatch)とも言う。内径20cm程度が多い。 |
プロセス |
貯蔵(液体) |
物質 |
ベンゼン(benzene)、図2 |
事故の種類 |
爆発・火災 |
経過 |
事故3日前の1972年1月5日から凝結防止のためにタンク底面のコイルにスチームを流して、ベンゼンを加熱した。1月8日午前中に、貨車に38kL払い出し、他のタンクから251kL受け入れた。その午後、当該タンク屋根の試料採取口を開け、最初に金属製検尺テープで在槽を計量し、それからサンプリングシフによるサンプリングを開始した。先ず、上層部のベンゼンを採取し、次いで、中層部を採取中、火炎が噴出した。 サンプリングシフ: 試料採取器。タンク天井部からタンク内液の試料を採取する道具。蓋付きの金属製容器で、1本の紐で吊す。紐の先に工夫があり、液の適当な深さのところで紐を強く引いて蓋を開けてサンプルを取ったら、紐も手繰ってタンクのサンプル採取口まで引き上げる。液内を移動させるので、静電気の発生がある。深さ方向の任意の箇所の試料が取れるので、何回分かの試料を混合することにより代表サンプルとすることができる。 |
原因 |
ベンゼンタンク内のベンゼンサンプリングをタンク屋根で行っていた時に採取器と試料採取口など設置物との間で発生した静電気により、タンク気相部のベンゼン蒸気が爆発した。外気温度は9.6℃との記録があるが、タンク内部は11-14℃と推定され、爆発性混合気を生成していたと思われる。なお、加熱されているため、もっと温度が高く蒸気圧が高くなり、ベンゼン蒸気の爆発範囲の上限を越えていても、タンク気相部に濃度勾配があり、タンク上部では爆発範囲に入っている可能性はある。試料採取口を開けたため、新鮮な空気が入り、濃度勾配が生じた可能性は大きい。なお、午前中のベンゼン移送で生じた静電気がタンク内に残っていた可能性もある。 |
対処 |
自衛消防隊及び公設消防隊による消火活動 |
対策 |
静電気を発生しやすい引火性液体の場合、静電気がたまらない工夫が必要である。サンプリング用の紐は電気の良導体である黄銅製である必要がある(改正後のJIS)。タンクは窒素シールをすることも必要ではないか。 |
知識化 |
危険物移送時には静電気を生じる。時間をおいてからサンプリングすべきである。また、静電気を発生しやすい引火性液体のサンプリングはJIS等で決められているので、それに従って行う必要がある。タンク屋根でのサンプリングはできるだけ避け、パイプ等で行うべきである。 |
背景 |
タンク天井からのサンプリング時は、液体の中をサンプル容器を移動させるので常に静電気を生じている。容器の吊り紐に木綿を用いるなど十分な接地も取っておらず、静電気発生の危険性を十分に認識していなかった。また、外気温が低くとも、冬場のベンゼンタンクは加熱されているので、液温は外気より高く可燃性混合気を気相全部あるいは一部で作っている可能性が大きい。運転状態について理解が欠けていた可能性がある。 |
後日談 |
本火災後、JISが改正され、低引火点液体用のサンプリングの紐は黄銅製に限られた。 |
よもやま話 |
☆ ベンゼンは発がん性が高く、消防活動も十分な対策が必要ではあるが(例えば、煙、発生ガスを吸わないようにする)、当時は余り考慮されていない。 ☆ タンク内の気相は全て同じ液成分の蒸気濃度にあるわけではない。全体が液温の平衡濃度になるのは時間がかかる。液温が爆発範囲の上限を超えていても、濃度勾配があれば、気相部の上部では爆発範囲に入ることもある。 |
データベース登録の 動機 |
ベンゼンタンク天井からのサンプリングシフによる試料採取中の静電気による爆発事故例 |
シナリオ |
主シナリオ
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価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、運営の硬直化、教育・訓練不足、無知、知識不足、勉学・経験とも不足、計画・設計、計画不良、不良行為、規則違反、安全規則違反、二次災害、損壊、爆発・火災、身体的被害、負傷、2名負傷、組織の損失、経済的損失、損害額1.2億円
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情報源 |
山田武、火災、No.86、p.145-151(1972)
川崎正士、松原美之、安全工学、Vol.18(No.5)、p.284-293(1979)
北川徹三、爆発災害の解析、日刊工業新聞社(1980)、p.68-70
高圧ガス保安協会、コンビナート事故事例集(1991)、p.216-218
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
2 |
物的被害 |
1万klベンゼンタンク本体側板上部焼損 |
被害金額 |
1億2,000万円(火災、No.86) |
マルチメディアファイル |
図2.化学式
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備考 |
可燃性液体の固有抵抗値が10^10Ωcm以上で引火点が低いあるいは気相部分が爆発範囲にあるタンクは静電気に対し危険と考えるべきであろう。 |
分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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