事例名称 |
重油脱硫装置の反応器出口側空気式冷却器の火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2000年02月10日 |
事例発生地 |
北海道 苫小牧市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
重油の脱硫装置の反応器出口側にある空気式冷却器の伝熱管の腐食開孔による火災が起こった。原油変更による腐食作用の増加と設計時には思いもよらなかった熱交換器伝熱管同士での偏流から起こった。 |
事象 |
重油脱硫装置の反応器出口側の高温高圧分離槽からの蒸気を部分凝縮する熱交換器で漏洩火災が起こった。空気式冷却器の伝熱管1本が、腐食により開孔し、火災になった。発災場所は反応器出口側で、高温高圧での気液分離槽を経て、120℃の水素、軽質炭化水素及び洗浄水混合物を空気式冷却器で40℃まで冷却、部分凝縮している。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
水素化脱硫 |
物質 |
水素(hydrogen)、図3 |
塩化アンモニウム(ammonium chloride)、図4 |
ナフサ(naphtha) |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
1. 当該施設は1998年より稼働を開始した。 2. 当該熱交換器は2年前の1998年に3回目の点検をし、軽度の腐食を認めただけで特に問題はなかった。 3. 発災当日は、定常運転中で、14:33に突如、当該熱交換器付近から火災が発生した。 |
原因 |
伝熱管腐食の原因は、塩化水素によるものと推測される。さらに熱交換器内の流動解析の結果、以下のことが判明した。 1.熱交換器内各パスの上段伝熱管の左右両側で、相対的に洗浄水量が少なくなる。そのため、洗浄水は再加熱され、いったん溶解された塩化アンモニウムが蒸発し塩化水素が発生する。当該伝熱管の液相が残る下部が激しい腐食環境になる。2年前に油種をアラビアヘビー原油に変更したが、同原油は塩素分が多い。ただし、ライセンサーによる塩素濃度の許容値内ではある。 2.着火源は、水素の噴出による静電気と思われる。 |
対処 |
自衛消防及び公設消防 |
対策 |
メンテナンスが重要である。配管材料はSUSを使用していたが、塩素分が多い場合には適切であったかどうか。建設時と油種が変わった場合、その不純物レベルがライセンサーの許容範囲とはいえ、十分な検討が必要であったと思われる。 |
知識化 |
重油の脱硫装置の事故は極めて多い。腐食性の物質が生じやすいことが原因の一つである。製油所で重点的に点検すべき箇所ではある。 |
背景 |
ある意味では不可抗力の事故かも知れない。とはいえ、同じ装置でこの後も重大事故が起こり、何故同じ装置で重大事故が発生したかに興味を持たれている。熱交換器での同一パス内の伝熱管毎の偏流は通常の設計では考えない。油種変更には一応ライセンサーマニュアルで許容されている塩素分などの不純物レベルを確保しているが、塩素分が増加しているので、注意を喚起すべきだったかも知れない。 |
後日談 |
事業所は日本を代表する石油会社ではあるが、この2年後にほぼ同じ場所で事故があった。同社の安全への取り組みが問われた。 |
よもやま話 |
☆ 死傷者は出なかったが長時間の火災となった。 ☆ 凝縮器の部分的な負荷分布が問題となっている。従来は伝熱管の表面温度の影響程度の詳細検討をすれば十分だったが、熱交換器設計でも同一パス内の伝熱管毎の偏流を考えねばならないことになる。設計上は難しい問題である。 |
データベース登録の 動機 |
重油脱硫装置の反応器出口側空気式冷却器内の洗浄水の流れの不均一に起因する火災例 |
シナリオ |
主シナリオ
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誤判断、状況に対する誤判断、データ不足で誤判断、調査・検討の不足、事前検討不足、原料組成と材質のミスマッティング、価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、計画・設計、計画不良、運転計画不良、使用、保守・修理、軽度な腐食に対応とらない、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
消防庁、危険物に係る事故事例‐平成12年(2001)、p.42-43
I石油H製油所事故調査委員会、I石油H製油所重油直接脱硫装置空気冷却器火災事故調査報告書(2000)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
重油直接脱硫装置の高温高圧分離槽蒸気2段空気式冷却器(RH-A7)の一部(15平方m程)焼損. |
被害金額 |
390万円(消防庁による) |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
古積 博 (独立行政法人消防研究所)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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