事例名称 |
炭素繊維製造用の電気黒鉛化炉の火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
1990年05月05日 |
事例発生地 |
神奈川県 川崎市 |
事例発生場所 |
化学工場 |
事例概要 |
ピッチ系炭素繊維の研究開発設備で、紡糸されたピッチ繊維を高温で焼成し、炭素繊維とする電気黒鉛化炉で火災が発生した。 冷却水に含有している塩素の濃縮による応力腐食割れと応力集中によりポストノズルに割れが生じた。冷却水が炉内に漏れ、炉内の炭素材と水性ガス反応が起こって一酸化炭素と水素が発生した。これが着火して炉外でも燃焼して火災となったと推定される。 |
事象 |
ピッチ系炭素繊維を研究開発している装置で、紡糸されたピッチ繊維を高温で焼成し、炭素繊維とする電気黒鉛化炉で火災が発生した。 |
プロセス |
研究開発(開発) |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
その他 |
物質 |
水素(hydrogen)、図3 |
一酸化炭素(carbon monoxide)、図4 |
炭素繊維(carbon fiber) |
事故の種類 |
火災 |
経過 |
当該炉は焼成のために1990年5月2日から2500℃に維持され、5月5日の早朝には焼成が終了し、次の焼成のための待機状態となっていた。 5月5日19:25頃 現場巡回点検では黒鉛化炉付近に異常はなかった。 5月5日19:39頃 異常警報確認 19:40頃 現場で火災確認 19:41頃 粉末消火器を使って初期消火開始 19:56頃 自衛消防隊出動 19:58頃 共同防災隊が建家屋根に冷却放水開始 20:00頃 公設消防隊が冷却放水開始 21:26頃 放水停止 21:57 鎮火確認 |
原因 |
1.電気黒鉛化炉のポストノズル部と言う箇所に割れが生じたため、ジャケットの冷却水が炉内に漏れ、炉内の炭素材と水性ガス反応が起こり、水素と一酸化炭素が発生した。 2.発生した可燃性ガスに着火し、炉外でも燃焼して火災となった。 3.冷却水に含有している塩素の濃縮による応力腐食割れと応力集中によりノズルに割れが生じたと推定される。 |
対処 |
1.粉末消火器による初期消火 2.建家屋根への冷却放水による延焼防止 |
対策 |
1.冷却水に純水を使用する。 2.応力集中となる構造を改善し、応力集中を減ずる。 3.炉内の一酸化炭素濃度を監視する。 |
知識化 |
1.水冷加熱炉の炭素材と冷却水が接触して水性ガス反応を起こす危険性がある。 2.オーステナイト系ステンレスは高温下で、塩素が濃縮した冷却水と接触すると、応力腐食割れの危険性がある。 |
背景 |
1.炉内温度が2530℃で焼成する炉の外周冷却部の冷却水性状と材質の選定に問題があったと思われる。塩素分が20ppmにもなる工業用水を用いており、SUS316では温度によっては応力腐食割れを想定する必要がある。資料に不明な点が多く、冷却水の最高温度の設計値はいくらだったか、フランジ部他の流れの停滞部分ができて塩素の濃縮が起こらないかなど、何処まで検討されたか不明である。 2.水が漏れた場合、材料と温度から水性ガス反応が起こることは十分に考えられる。 3.新規開発技術であるから、一層慎重な検討が必要だったであろう。 |
よもやま話 |
☆ 工業用水はゴミを取っただけで各種の溶解物を含んでいる。当然酸素や塩素も含まれている。高温になれば腐食性が大きくなったり、沈殿物が壁面に付着し濃淡電池を作り腐食しやすくする。この辺りの検討が重要である。 |
データベース登録の 動機 |
電気黒鉛化炉に冷却水が浸入して水性ガス反応が起こり、生成した可燃性ガスが発火して火災となった事例 |
シナリオ |
主シナリオ
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調査・検討の不足、事前検討不足、使用環境調査、組織運営不良、構成員不良、構成員経験不足、計画・設計、計画不良、材料設計不良、不良現象、化学現象、濃縮、破損、破壊・損傷、応力腐食割れ、二次災害、損壊、漏洩、不良現象、化学現象、異常反応、二次災害、損壊、火災
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情報源 |
高圧ガス保安協会、石油精製及び石油化学装置事故事例集(1995)、p.200-202
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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