事例名称 |
重油脱硫装置の循環ガスバイパス配管の腐食による漏洩、火災 |
代表図 |
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事例発生日付 |
2002年04月15日 |
事例発生地 |
北海道 苫小牧市 |
事例発生場所 |
製油所 |
事例概要 |
1.常圧重油脱硫装置の循環ガスの硫化水素吸収塔バイパス配管に130×90mmの楕円形の開口部が生じ、内部流体が噴出して火災となった。 2.原油に含まれる窒素分が水素と反応してアンモニアが生成し、これがバイパス内に滞留している硫化水素と反応して水硫化アンモニウムが生成した。一方、垂直配置の行き止まり配管であること、寒冷地であること、フランジ部は保温されていないことによる内部流体の流れは特異的であった。水滴が生成したり消えたりすることにより水硫化アンモニウムによる腐食が活発になる環境が局部的にできており、非常に速く腐食が進行し、開口部ができたものと推定される。 3.着火源は流体の噴出による静電気、流体噴出に伴う金属の衝撃、摩擦による火花などが考えられる。 |
事象 |
常圧重油脱硫装置の循環ガスの硫化水素吸収塔のバイパス配管に130×90mmの楕円形の開口部が生じ、内部流体が噴出着火して火災となった。なお、バイパス配管は材質STS48-S、呼び径10インチ、肉厚28.6mmであった。 |
プロセス |
製造 |
単位工程 |
反応 |
単位工程フロー |
図2.単位工程フロー
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反応 |
水素化脱硫 |
物質 |
水素(hydrogen)、図3 |
硫化水素(hydrogen sulfide)、図4 |
水硫化アンモニウム(ammonium hydrosulfide)、図5 |
事故の種類 |
漏洩、火災 |
経過 |
2002年4月15日19時15分頃、常圧直接脱硫装置で火災が発生した。 直ちに自衛消防隊、地区共同防災組織、公設消防、石油備蓄基地共同防災組織が消防活動を行い、翌16日5時30分に鎮火した。 |
原因 |
1.発災箇所は行き止まり配管で、かつ垂直に配置されている。原油に含まれる窒素分が水素と反応してアンモニアが生成し、これがバイパス内に滞留している硫化水素と反応して水硫化アンモニウムが生成した。一方、垂直配置の行き止まり配管であること、寒冷地であること、フランジ部は保温されていないことによる内部流体の流れの特性などが重なって、水滴が生成したり消えたりした。そのため、水硫化アンモニウムによる腐食が活発になる環境が局部的にできていた。それにより、局部的に非常に速く腐食が進行し、開口部ができたものと推定される。 2.着火源は流体の噴出による静電気、流体噴出に伴う金属の衝撃、摩擦による火花などが考えられる。バイパス配管はバルブ閉止で流れがなく、行き止まり配管になっているので、通常の流れのある配管と同一視は出来ない。 |
対処 |
自衛消防隊、公設消防等が消防活動を行った。 |
対策 |
1.バイパス配管の撤去 2.事業所内の類似配管の点検 |
知識化 |
配管内の温度分布とその履歴、内部流体の運動などが重なって局部的に非常に腐食が進行する環境となることがある。行き止まり配管になっており、予測や解析は難しい。 |
背景 |
発災社の報告書では非常に特異な例で予見不能としてある。行き止まり配管での凝縮と垂直配管での流れの挙動が絡んだ非常に局所的な事例である。とはいえ、一般論であるが、日本国内の製油所では処理原油が一定でなく、常に異なった原油が取り扱われ、それによって腐食媒体も異なっている。配管形状その他、全く同じ設備はないと考えられる。他所に事例を求めるのではなく、自所の特異条件として考えるべき問題でもあったとも考えられる。 |
よもやま話 |
☆ 行き止まり配管での事故事例は多いが、その一つ一つは見かけ上違った事象である。同じプロセス、技術に基づく装置でも、装置は一つずつ異なっているので、エンジニアや管理者が必死で考えなければ本当の姿は見えない。 |
データベース登録の 動機 |
特異な状況下での急速腐食による配管の開口事例 |
シナリオ |
主シナリオ
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未知、異常事象発生、調査・検討の不足、仮想演習不足、行き止まり配管の影響、計画・設計、計画不良、設計不良、破損、減肉、腐食、二次災害、損壊、火災、組織の損失、経済的損失、総額で70億円以上の被害
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情報源 |
産業と保安、Vol.18(No.31)、p.2-5(2002)
I石油、同社ホームページ、H製油所重油直接脱硫装置火災事故に関する原因と対策について、(2002)
産業と保安、Vol.18(No.17)、p.7-8(2002)
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死者数 |
0 |
負傷者数 |
0 |
物的被害 |
脱硫装置の空冷式冷却器の付近一帯.約1万5000平方mの敷地に設置されている同装置のうち、燃焼したのは直径約30mの範囲.(朝日新聞による) |
被害金額 |
被害総額は約70億-80億円に上る見通し(6月6日・I石油報告書による) |
社会への影響 |
2002年4月15日20:00、苫小牧署は製油所周辺の北海道電力など約10社に従業員の避難を呼び掛けるとともに、周辺1kmを立ち入り禁止にした. |
マルチメディアファイル |
図3.化学式
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図4.化学式
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図5.化学式
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分野 |
化学物質・プラント
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データ作成者 |
小川 輝繁 (横浜国立大学大学院 工学研究院 機能の創生部門)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)
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