失敗事例

事例名称 脱アルキル反応によるベンゼン製造装置の高温熱交換器からのガスの漏洩による火災
代表図
事例発生日付 1998年09月20日
事例発生地 茨城県 神栖町
事例発生場所 化学工場
事例概要 水素を使用する高温高圧装置のスタート作業中に、熱交換器のフランジからのガス洩れが発生し火災になった。ホットボルティング時の締め付け力の管理が不充分でバラツキがあったことと、定期修理期間中に実施した工事の影響で熱交換器シェル入口温度上昇の影響で漏洩した。
事象 高温高圧の水素を使用するベンゼン製造装置のスタート時の昇温中に、熱交換器フランジより水素ガスが漏洩し、火災になった。なお、同装置ではトルエン、C9芳香族炭化水素を原料とし、脱アルキル反応でベンゼンを製造する。
プロセス 製造
単位工程 設備保全
反応 その他
化学反応式 図2.化学反応式
物質 水素(hydrogen)、図3
メタン(methane)、図4
事故の種類 漏洩、火災
経過 1. ベンゼン製造装置の定期修理を6月に行った。
2. 9月に実ガス(水素他)による気密試験を終え、昇温・昇圧作業を開始した。
3. 昇温・昇圧作業中に、隣接する装置の運転員が、縦型蒸発器の上部から火炎が出ているのを発見した。
原因 1.フランジのボルト締め付け力にバラツキがあった。
2.省エネ工事の実施により、シェル側入口温度が以前の400℃より420℃に上昇した。
3.ボルト(材質SUS材)とフランジ材(炭素鋼)の熱膨張差により局所的に締め付け圧力が低下した。SUS材の熱伸びは炭素綱より大きい。
4.着火源は漏洩した時発生した静電気と推定された。
対処 プラント緊急停止、関連機器の窒素パージ
対策 1.初期ボルト締め付け時の軸力の定量管理
2.運転温度上昇時の現場巡視の実施及び監視強化の確立
知識化 1.高温高圧装置のフランジボルトの締め付け力定量管理を行う。
2.省エネ工事などで関連機器の温度が上昇する場合は、温度上昇の影響を化学的側面だけではなく、機械の面からも十分に検討すること。
背景 1.ボルトの締め付け力の定量管理が不足し、初期締め付け力が不足の部分があった。
2.ホットボルティングの作業基準または実施の不備があったのではないかと推測する。
3.省エネ改造の結果として温度上昇があったが、その影響を見落した可能性がある。
 ホットボルティング: 高温で運転する機器・配管では、工事のボルト締め付け時より温度が上昇し、材料の伸びによって締め付け力の低下がある。そのため、昇温の程度により、何回かボルトの締め直しを行う。その作業をホットボルティングという。発災した蒸発器の設計条件は胴側2.4MPaG、500℃、管側2.8MPaG、300℃で、ホットボルティングの対象機器である。
データベース登録の
動機
高温反応器の温度上昇中のフランジの緩みによる事故例
シナリオ
主シナリオ 価値観不良、安全意識不良、リスク認識不良、組織運営不良、管理不良、管理の緩み、誤判断、誤った理解、詳細立案ミス、脱アルキル反応、計画・設計、計画不良、工事計画不良、使用、保守・修理、修復、機能不全、ハード不良、締付け不良、二次災害、損壊、爆発
情報源 消防庁、危険物に係る事故事例‐平成10年(1999)、p.46-47
高圧ガス保安協会、高圧ガス保安総覧‐平成11年版(2000)、p.72
死者数 0
負傷者数 0
物的被害 反応器へのフィード蒸発器の頂部約4.9平方m焼損.
被害金額 30万円(消防庁による)
マルチメディアファイル 図3.化学式
図4.化学式
分野 化学物質・プラント
データ作成者 小林 光夫 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻、オフィスK)
田村 昌三 (東京大学大学院 新領域創成科学研究科 環境学専攻)